3.妄想の映画館

妄想の彼女 美和子

土曜日の午後、隆志が駅前で待っていると美和子が向こうからやって来るのが見えた。
今日の美和子は白っぽい花柄の膝下まであるフレアスカートにグレイのノースリーブのサマーニットを着ていた。相変わらずニットの胸元は、その下に大きな中華まんじゅうを二つ抱えているかのように膨れていて、それが美和子の歩くリズムに合わせて揺れていた。
(ああ、久々のバインだな。全然変わらず、相変わらず山本のバインだ)
美和子が高校時代と変わらずに、たわわな体であることが、隆志は妙に嬉しかった。
(やっぱり美和子は期待を外さない女の子だな)
その美和子とこれから映画に行くのかと思うと、それだけで隆志は股間が熱くなるのだった。
「待った?」
近くに来た美和子が爽やかにほほ笑んだ。
「いや。オレも今来たところなんだ」
実は一時間前から来ているとは言えず、隆志は嘘をついた。
それから二人で電車に乗り、繁華街を歩くという映画館までの時間は、夢のように過ぎていった。道行く人々が、みんな美和子の美しさとスタイルの良さに注目しているように思えて、隆志は勝手に誇らしかった。

シネコンのメニューの中で二人が選んだのは、ハリウッドのラブコメ映画だった。その映画は上映の最終週だったため、席はすいていて好都合だった。場内に入ると隆志は美和子の前を歩き、空いている列に陣取った。
「オレが奥に座るね。変な奴が隣に座ると嫌でしょ」
そう言って隆志は奥に席を取り、通路側に美和子を座らせた。
「新谷くん、やさしいね」
美和子が微笑んだ。
「そうでもないよ」
と答えながら、隆志は褒められたのがうれしかった。
場内が暗くなり、CMに続いて本編が始まった。スクリーンではのっけから主人公を巻き込む大騒動が起こり、そのつかみの巧みさに、隆志は映画に引き付けられてしまい、一瞬美和子の存在を忘れた。
(あっ)
大きく笑った瞬間に、隆志の肩が美和子に当たり、隆志は思わずびくりとした。それまで二人は、お互いの間にあるひじ掛けに腕を置いていなかったので、ひじ掛け一つ分の間隔を開けて座っていたのだった。それが笑って体を揺らした瞬間に、肩と美和子の二の腕が触れ合ったのだった。
(うぁー、オレ今、山本の腕に触ってる)
そこから隆志の意識は完全に映画から離れ、触れ合っている部分を異様に意識しだした。
シャツの袖を通して、陶器のように白い美和子の二の腕の肉の感触が伝わってくる。柔らかい肉の触感とともにひんやりと冷たく、いかにも清楚な感じがした。
(このまま最後まで、ずっと触れていたい)
隆志は体を固くして偶然風を装いながら、その実、美和子と密着し続けた。チラリと美和子の表情を伺うと、美和子は映画に没頭していて、二人の密着をまったく気にしていないようだった。
(もう映画どころじゃないよ)
興奮した隆志は、それからスクリーンよりも美和子を盗み見ることに専念した。
スクリーンの光を浴びて、暗闇の中に美和子の美しい横顔が浮かび上がっている。時折、大きな目をぱちくりさせながら、一生懸命映画を見ている美和子が愛らしかった。
美和子は自分の両手をつないでお臍のあたり置いているので、両腕が胸を縁どるような形になって、大きな胸をより強調させていた。それが、美和子が笑うたびにかすかに揺れるのだった。
(ああ、たまらん。手を伸ばして、あの胸の膨らみをぐっと握ったら、どんな感じがするんだろ)
隆志の想像が広がり、妄想の扉が開くのだった。

夕暮れの公園のベンチに二人は座っていた。目の前には大きな噴水があって、二人の姿をまわりの目から隠していた。
隆志は腕を回すと、並んでいる美和子の肩を抱き寄せた。
「誰かに見られたら恥ずかしいよ」
恥ずかしさにほんのりと頬を赤く染めた美和子が言った。
「誰も見てないし、見えないよ」
「…そうだね」
そうつぶやいた美和子がこちらを向くと、まるで子犬が甘えるように隆志の首筋に唇を近づけ、首筋に軽くキスをしてきた。唇の濡れた感触と、美和子の吐息が、隆志の首筋にまとわりついてきた。
(うわー、ももももうダメだ。もう我慢できない)
隆志は空いている反対の手を美和子の胸元に伸ばし、膨らみに手のひらをそっとあてがった。
「いや?」
隆志の問いかけに、美和子が囁いた。
「…いやじゃないよ」
許しを得た隆志は胸の膨らみにあてがった手の平を、ゆっくりと握っていった。こうして隆志は服の上から、毎日夢に見てきた美和子の乳房を初めてとらえたのだった。
やさしく揉んでみると、美和子のオッパイはパンパンの弾力で、隆志の指を弾き返してきた。ニットとその下のブラジャーに阻まれているとはいえ、隆志はその中にある充実した肉のボリュームを十分に感じることができた。
「ねぇ、どんな感じがする」
胸をやさしく揉みながら、隆志は思い切って聞いてみた。
「ええ…、やだぁ。よくわからない。でも恥かしいよ」
美和子が囁くようにいった。
「山本は昔からスタイルがいいよね」
「…それって、胸が大きいってこと?」
「うん、まあ、そうだけど」
「あんまり言わないで」
「どうして」
「自分でも人より胸が大きいのはわかってる。恥かしいけど…」
「けど?」
「恥かしいけど、どうしようもないの。自分ではどうにもならないことだから。だから、あんまり大きいって言わないで」
「そうなんだ。わかったよ」
美和子が胸を揉んでいる隆志の手を握ってきた。
「ほんとうに、誰かに見られたら困るよ」
美和子が口をとがらせて訴えてきた。
「そうだね」
隆志は美和子の胸を揉んでいた手を戻すと、その代わりに反対側の肩に回している手に力を込めた。そのままぎゅっと肩を抱きしめると、美和子が小さく息を吐いた。
「ねえ、キスしようよ」
隆志の問いかけにコクリとうなずくと、美和子が自分から唇を寄せてきた。
それから二人は人目も憚らす、長いキスに没頭していった。

スクリーンに映されたエンドロールが終わり、場内が明るくなった。
「ああああ」
美和子は両手を握ったまま天井に向かって腕を伸ばし、大きく伸びをした。
その瞬間、美和子の胸の膨らみがぷるんと動いた。
「面白かったね」
「そうだね。面白かったね。もう最高だよ」
隆志は胸を盗み見ていたのをさとられまいと、大袈裟に返事をした。
映画館から通りに出ると、隣を歩く美和子が突然言った。
「なんだか、お腹空かない?」
「なんか食べにいくか?」
「さんせい!」
美和子が明るく応えた。

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