図書館のカフェコーナーには、二人掛けのテーブルと椅子がいくつか置かれていて、運よく他から少し離れている壁際の席が空いていた。そこに隆志が座ると、ついてきた美和子が小さなテーブルを間にして正面に座った。生れて初めて、真正面の至近距離から美和子を見た隆志は、それだけであまりの喜びに失神しそうだった。どうしても美和子の胸元のバインに目がいきそうになるのを懸命に堪えて、かといって正面から美和子の目を見つめる度胸もなく、隆志は美和子の顔の輪郭をぼんやりととらえていた。
「新谷君は法学部だったよね」
「そうだけど、知ってるの?」
「知ってるよ。私たちの代であの大学の法学部に入ったのは新谷君1人しかいないじゃない。噂になってたよ」
「そうらしいけど、俺は浪人したし…たいしたことないんじゃない」
「そんなことないよ。一浪で入ったんだから凄いよ」
美和子が隆志の受験での躍進を、尊敬を持って知ってくれていることが嬉しかった。
(ああ、頑張って勉強してよかった)
予想外に褒められて、隆志の心にすこし余裕が出てきた。隆志の視線は少しずつ実物の美和子にフォーカスしていった。
久々に間近に見る美和子は、高校時代と変わらず愛らしい顔立ちをしていた。長いまつ毛に縁どられた黒目がちの大きな瞳は、まるで子供の頃に見た絵本に出てくる小鹿のようだった。
(ああ、あの瞼を指で押さえつけて、美和子の瞳を舌で舐めてみたい!)
隆志はあらぬ想像を膨らませるのだった。
さらに桜色の唇がぷるんと光っていて、隆志は今すぐにでも吸いつきたい衝動にかられた。そして小ぶりだが筋の通ったすっとしている鼻にも、今すぐがぶりとかみつきたかった。
こうして隆志の妄想はどんどんエスカレートしていった。
(山本は、もう誰かとキスしているんだろうか?)
とうとう隆志の妄想の世界に、隆志の口づけを受け入れる美和子が現われた。
目の前にいる美和子は目をつぶっている。そして隆志のキスを受け入れようと、小首を傾げるのだった。その仕草が合図となって、隆志は思い切って顔を寄せていった。近づくにつれ、美和子のいい匂いが溢れてきた。
(洗いたてのタオルみたいに、太陽の匂いがする)
その空気を一杯に吸い込みながら、隆志はゆっくりと唇をかぶせていった。
(うはっ…や、やわらかい)
すこし湿った美和子の唇が、隆志のそれをとらえ、柔らかい弾力で応えてきた。生れて初めてのキス。生れて初めて感じる人肌に暖かい唇の感覚に、隆志は身をよじるほどの快感を得た。
(やばいよ。オレが山本美和子とキスしてる。…もう死んでもいい)
この状態から美和子を逃がすまいと、隆志は美和子の体にゆっくりと腕を回した。美和子の体が隆志の腕の中にすっぽりと収まった。
(なんて柔らかいんだろう)
生れて初めて抱きしめた女の子の体は、まるで骨がないかのように腕の中でくにゃりと密着してきた。これまで隆志が経験したことがある人間の体の手ごたえ、例えば体育の時間に男同士で肩を組んだ時に感じた、ごつごつと骨が当たる感覚とは全く別物の感触だった。やわらかくふわふわとしていて、まさに美和子の、女の子の体は天使なのだった。隆志は唇をとらえたまま、美和子の体に回した腕に力を込めていった。
すると密着するのを怖がっているかのように、隆志の胸板を両手で押す形になっていた美和子が、ゆっくりと腕を下におろした。
(うわー、おおお、オッパイがあたる)
抱きしめる力をじょじょに強くしていくと、夢にまでみた美和子のオッパイが、隆志の胸板におしつけられてきた。それはとてつもなく柔らかくて、ボリュームのある肉感だった。まず、とがったロケット型の先っぽが、隆志の胸板に触れた。それが少しずつ押し付けられて広がっていく。そして大きな塊となって、隆志に密着してくるのだ。
(たまらない。もう、とまらないよ)
隆志は背中に回した腕に力を込めた。その分密着度が上がって、オッパイがさらに押し付けられてくるのだった。
「う、ううん」
美和子が軽くうめいた。
(いけない。力を入れ過ぎた)
隆志は腕の力を抜いた。そして今度は背中をたどって、腕をゆっくりと下げていった。やがて両手が美和子のお尻の丸みを捉えた。
(おい、お尻だ。山本美和子のお尻だよ)
隆志は手のひらを広げて、ゆっくりとその丸みに這わせていった。スカートの下にあるお尻の肉が、なんともいえないボリュームを示してきた。隆志はたまらなくなって、ついにお尻の肉をゆっくりと握り締めるのだった。
「ふううううん」
口づけたままの美和子が、再びくぐもった声を上げた。その声にさらに興奮した隆志は、手のひら一杯にお尻の肉をつかむと、ゆっくりと回すようにして揉みしだいた。その動きに合わせてか細い声であえぎ出した美和子は、再び腕を上げると、隆志の胸板を両手で押し返してきた。二人の間に距離が生まれ、唇が離れた。
「やだ。恥ずかしいからダメ」
真っ赤に顔をほてらせた美和子が囁いた。
「ごめんな」
そう言いながら、再び隆志は唇を求めた。
(怒ったかな?)
すこし不安な気持ちのまま顔を再び近づけていくと、美和子はすんなりと隆志の唇を受け入れてくれた。
(よかった。怒ってない。ああ、もっと美和子に触れたい)
隆志は思い切って舌をすぼめると、美和子の唇に押し付けた。
「はあああん」
小さな吐息が漏れると、美和子の唇が遠慮がちに開かれた。許された隆志は、すぼめた舌を、美和子の唇の間に忍び込ませた。
隆志は人の口の中に初めて舌をいれたのだ。そこは自分と微妙に温度が異なり、でもやさしい温もりがある喜びの洞穴だった。
美和子の前歯を舌先でなぞる。それはスベスベとしていて、まるで美和子の純潔を表しているかのようだった。
(すごいぞ、すごい。オレは美和子の前歯を舐めてるんだ)
隆志の舌の動きに応えるように、美和子が少し前歯を開いた。隆志の舌先が、本能的にその奥にもぐりこむ。そして、ついにその中にある美和子の舌を捉えた。
「ああああん」
くぐもった声を上げた美和子は、驚いたことに突然、口をすぼめた。そしてゆっくりだが力強く、隆志の舌を吸い上げてくるのだった。
(おい、なんだよ。どうなってんだよ。美和子すごいよ。たまらない)
隆志は夢中になって美和子の口の中を味わった。美和子に舌を吸われて、体が痺れた隆志は、もうどうにかなりそうだった。
すると今度は美和子の舌がゆっくりと押し返してきた。
(そうだ。そんなんだよな)
美和子の愛おしい企みに気付いた隆志は、舌を引き上げた。予想通り、美和子の舌が追いかけてきた。そしてついに隆志の口の中へと入ってきた。
(うわわわわ)
隆志は喜びに打ち震えながら、美和子の舌を乱暴に吸い上げた。
(引きちぎって、そのまま呑み込みたいんだ)
思いっきり口いっぱいにして舌を吸い上げると、快感が全身を貫き、隆志はあっけなく果ててしまった。
ふと気が付くと、目の前で美和子が笑っていた。
「どうしたの新谷君」
「ええ、なんでもないよ」
いきなり現実に引き戻されて、隆志はまごまごした。
「なんか心配事でもあるの?」
「なんで?」
「だって、さっきから私の話聞いてないよね」
「そんなことないよ」
「そうかな?…悩みがあるなら相談にのるよ」
美和子がいたずらっぽく笑った。
「いや、悩みというより、実は話したいことがあって…」
「なに?言ってみて」
「実はさ、今度の土曜日に映画行かないかなって思って…。でも迷惑かなって、ちょっと考えてた」
美和子が微笑んだ。
「なんだ、そんなことか。いいよ、行こうよ」
「本当に?」
「だって、論文も少し早めに進んでるし、ちょうど土曜日は予定ないし、断る理由ないもん」
「よかった。嫌がられるかと思った」
「なんでそう思うのかなぁ?」
美和子は不思議そうな顔で、隆志を覗き込んできた。その仕草に、隆志は幸せ過ぎて失神しそうになった。