4.花火大会

妄想の彼女 美和子

映画に行った帰り、一緒にご飯を食べた時に、隆志は思い切って美和子を花火大会に誘った。
「いいよ。行こうよ。楽しみだな」
意外にも美和子は嬉しそうにOKした。
(映画といい、花火といい、あまりに話が上手くいきすぎる。オレは何か怖いくらいについてるな)
隆志はひょっとしたら美和子は自分のことが好きなんじゃないか、といううぬぼれた気持ちを抱き始めていた。
(もし山本美和子とつきあえたら…)
そう思うだけで、隆志の脳裏にはあれこれとエロい妄想が湧いてきて、眠れない夜が続くようになった。

ついに待ちに待った花火大会当日、驚いたことに美和子は浴衣を着てやってきた。
藍色に白い藤の花が大胆にデザインされている浴衣に白を基調にした帯のコントラストが映えて、まるでファッション誌から抜け出たようにオシャレだった。足元には橙色の鼻緒の下駄に、ちょこんと揃っている足の指が愛らしかった。
「浴衣着て来たんだ。それなのにごめん、オレはこんな格好で」
着古したTシャツとジーンズ姿の隆志は、思わず身を小さくした。
「気にしなくていいよ。私が勝手に着てきたんだから。というか、この浴衣、一昨年揃えたんだけど着る機会がなくて、ずっと仕舞ってあったの。だから花火に誘ってくれた時、やっと浴衣の出番が来たって、嬉しかった」
(なるほど、そういうことだったのか)
美和子は隆志と花火大会に行くことで、浴衣を着る機会を得たことが単純に嬉しかったのだ。
(だから、すぐに花火をOKしたんだ)
隆志はそう納得した。
「山本は着物、一人で着られるんだ」
「成人式の時にちょっと習っただけで、本格的には無理だよ。でも今は色々と便利なグッズがあるから、浴衣くらいなら誰でも着られると思うよ」
「そうなんだ。」
「それだけ?」
美和子の予想外の返しに、隆志が口ごもった。
「ええっ。いや、その、凄く似合っていて、かわいいよ」
その答えを聞いて美和子が微笑んだ。
「ありがとう」
(ちょっといい感じだな)
隆志は美和子の笑顔が嬉しくて、そして二人は並んで花火大会の会場へと急いだ。

「この辺にしようか」
会場の河川敷で、隆志は適当な場所を見つけ、持参したレジャーシートを広げた。
「お邪魔しまーす」
そう言っておどけた美和子は下駄を脱ぐと、シートの上にちょこんと座った。
「これは私からの差し入れね」
そういうと美和子は持ってきたトートバッグの中からランチボックスを取り出した。中には小さな俵型のおにぎりと、色とりどりのにぎやかなおかずが詰まっていた。さらにバッグの中からは缶ビールも出てきた。
「用意いいね」
「そうでしょ。取り敢えず花火の前に乾杯しよ」
そう言って、美和子はビールの口を開けた。
飲み、食べ、そして他愛もないことを話しているうちに夕闇が迫ってきた。会場アナウスと共に、いよいよ花火が始まった。最初はシートの上で正座してかしこまっていた美和子も、その頃になると横座りに膝を崩し、リラックスした雰囲気になっていた。晩夏の蒸し暑い空気を切り裂く破裂音とともに、暮れたばかりの夏空に花火が広がった。
「わー、始まった」
美和子ははしゃぐと、両腕を伸ばし後ろにつっかえ棒のようにして反らした体を支え、花火を見上げる格好になった。同じような姿勢をとって、隆志も花火を見上げた。お腹に響く音を矢継ぎ早にたてながら、次々と花火が打ち上がった。周りから歓声が上がり、美和子も隆志も花火に夢中になった。
「おお、すごーい」
ひと際大きな花火が打ち上がった瞬間、美和子が叫んだ。その時シートの上についていた美和子の手が少し滑り、偶然、隆志と美和子の手が触れた。それはつくかつかないかというくらい微妙な接触だったが、全身の神経を集中している隆志のセンサーは、はっきりと美和子の指先を捉えていた。そっと覗き込むと、美和子は全く気にせずに、花火を追って空を見上げていた。
(これって、厳密に言えば手を繋いでいるってことだよね)
実際には隆志の中指が、美和子の小指の真ん中あたりにかすかに当たっているだけなのだが、隆志の妄想はそこから大きく膨らむのだった。
今日は浴衣を着ているので、山本のバインは目立たなかったが、それでも両手をシートにつけて、少し胸を反らし気味にして空を見上げている美和子は、浴衣の上からでもやっぱり豊かな胸元を見せてくれた。洋服の時のようにロケット型に突き出てはいなかったが、その分、裾野の大きなこんもりとした山が、胸元に出来ていた。それが手を後ろに引いていることで、自然と浴衣が引き絞られて、隆志の目を釘付けにするのだった。
(ああ、あの襟元から手を突っ込みたい)
そう考えるだけで隆志は痛いほど、股間を熱くするのだった。そこから妄想の世界で、ついに隆志は美和子をラブホテルに連れ込んでいた。

帰りに道に突然のゲリラ豪雨に遭遇した二人は、雨宿りのために、なし崩しにそのままラブホテルに入ったらしかった。暗い間接照明の中、二人はダブルベッドの端に並んで座った。
「キスしていい?」
隆志の問いかけに、美和子がコクリとうなずいた。それを合図に隆志は美和子の肩を抱きよせると、そっと唇を合わせた。柔らかく温かい美和子の唇から、うっすらとミントの香りが立ち上ってきた。
(なんていい匂いなんだろう)
舌先で美和子の前歯を割ると、隆志はゆっくりと舌を差し入れ、美和子の口の中を味わった。やがていつものように、美和子が口をすぼめ、隆志の舌をまったりと吸ってきた。
(ああ、もう我慢できない)
隆志は空いている手を美和子の胸元にあてると、浴衣の合わせ目に手を滑り込ませた。美和子は浴衣の下にタックトップを着ていた。その襟ぐりからさらに手を忍び込ませる。そこには美和子のオッパイをかっちりとガードしているブラジャーがあり、レースの生地がスベスベと指先に心地よかった。隆志はかぶせるようにしてブラのカップ全体に手をあてると、やんわりと揉んでみた。
「うううん」
美和子は厭がるそぶりを見せず、夢中になって隆志の口を吸ってきた。
(よし、今しかない)
隆志は勇気を出してブラの縁からカップの中へと指を進めていった。美和子のオッパイは予想以上にふかふかに柔らかく、ひんやりと冷たかった。やがて、指先が求めていたものを捉えた。
美和子の乳輪は隆志の中指の第一関節に余るくらいの直径で、その真ん中には幼子の親指ほどの乳首がすでに固くしこっていた。
(ツンツンに固くなってる。きっと美和子も気持ちかいいんだ)
隆志は親指と人差し指で、乳輪ごと乳房をはさむと、コリコリと刺激するのだった。
「ああん、ああん」
隆志の指先の動きに合わせて、美和子が唇をあわせながらよがり声をあげてきた。
(ああ、美和子のオッパイをこの目で見てみたい。…もう止まらないよ)
隆志は唇を外すと、ブラの中に忍ばせていた手を抜き取って、美和子の頬にあてた。
「ねえ、美和子のに、キスしたいんだ」
「…?」
「胸にキスしてもいいでしょ?」
「…う、うん」
許しを得た隆志は浴衣の襟に両手をかけるとそれを左右に割って、美和子の肩を浴衣から抜いた。
「ああああん」
帯まで浴衣が剥き上げられて、美和子はタンクトップをモロ出しにされて恥ずかしがった。さらにタンクトップを下にずりさげると、白いブラジャーが丸出しになった。ブラは大きな乳房を寄せ上げていて、深い谷間を作っていた。
「キスするよ」
そういって隆志はブラの上からキスしようと顔を近づけた。
「ちょっと待って」
美和子が右手を胸元に持ってきた。
「あっ」
驚いたことに、美和子が自らブラのフロントホックを外した。ブラが左右に開き、美和子のオッパイがぷるんと飛びだした。それは今までブラに締め付けつけられていたものが、一気に解放された瞬間だった。抜けるように白い釣り鐘型の大きなオッパイが現れ、それはまるで澄ましたように乳首を上に向けてえばっていた。
「綺麗だ。信じられないくらい綺麗だ」
(そして大きい。信じられないくらいデカい)
隆志は色々なことを思いながら、その頂きに恐る恐る唇を当てた。
口の中に乳首を吸い込むと、ゆっくりとしゃぶる。それは夢のような体験だった。こうして口いっぱいに美和子の乳輪を頬張り舌で転がしながら、隆志は空いている乳房に手を伸ばし、ここぞとばかりに揉みまくった。なんともいえない柔らかさと、指をはじき返してくる弾力。舐めながら、吸いながら、揉みながら、隆志は天に昇る気持ちだった。美和子の体から、甘い女の子の匂いが立ち上った。
(ああ、もう死んでもいい)
隆志は昇天した。

ひと際大きな破裂音で、花火がフィナーレを迎えた。夏の夜空に咲いた大輪の花が、名残惜しそうに消えていき、隠れていた星空が現われた。
「終わっちゃったね」
隆志が声をかけると、美和子がこちらを向き、にっこりと笑った。
「楽しかったね」
「そうだね」
「ねぇ、新谷君は花火見ながら何考えてた?」
美和子が隆志の瞳を覗き込むようにして問いかけてきた。
「そうだなぁ」
隆志は自分のエロい妄想を見透かされてるようでドギマギした。
「あのさ、夏も終わりだなって。もう終わるのかなって、それで…このままずっと続けばいいのにって思ってた」
「偶然だね。私もそう思ってた」
二人は笑いった。
耳を澄ますとどこからか、気の早い虫の音が聞こえてきた。

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