1.憂鬱なパーティー

囚われの真弓

20歳の女子大生の真弓は、ついこの間、付き合っていた彼氏にフラれたばかりだった。年上の彼は商社マンで、この春から海外駐在に行くことになった。しかも真弓との仲を一区切りさせ仕事に集中したいと言い残して、一人で海外へ旅立ってしまったのだ。実はひそかに結婚を夢見ていた真弓にとっては、青天の霹靂だった。
(処女をささげた相手なのに、ポイ捨てするなんてひどい)
人生最大に落ち込んだ真弓だったが、なんとか少しでも気晴らししようと、友達に誘われたパーティーに出かけることにした。その日の夕方、カーキ色のミニ・スーツに黒いニットのブラウスを着こんだ真弓は、パーティー会場に半分やけくそで乗り込んだのだった。
会場のレストランは、いかにも遊び人風の大学生や20代から30代の若いビジネスマンたちがひしめいていた。それを迎え撃つ女性陣は入学したての女子大生から30歳手前のOLといった年齢層で、少人数のグループに分かれながら、それぞれが私こそが主役とばかりに目立とうと、大げさにはしゃいでいた。若さの熱気でむんむんとする会場のあちらこちらで、男と女の品定め合戦が始っていた。レストランの中庭にはプールもあり、まだ明るいうちからプールサイドの陰で抱き合う男女の姿もみつけられた。
そんな中で、真弓は会場の隅にあるバー・カウンターで始まった、テーブル・マジックに釘付けになっていた。真弓が選んだカードをトランプの束にもどし、マジシャンがシャッフルすると、なぜか選んだカードが山の一番上から現れるではないか。
「スゴイ!」
興奮した真弓に、カウンターの向こう側から小柄なそのマジシャンがウィンクした。そして手にした1枚のコインを巧みにあやつり、それを3枚に増やしてしてみせた。さらに真弓がサインしたトランプ・カードが、なぜか他の女の子のポケットから出てきたりなど、次々に披露されるマジックに、真弓のボルテージは上がっていった。ひととおりのネタを披露した後、マジシャンは木崎道也と名乗った。
「ねぇ、よかったらVIPルームにいかない?」
お酒の酔いとマジックの興奮で、顔をほんのり赤色に染めた真弓の耳元で道也がささやいた。
「どこにあるんですか?」
「このビルの屋上、ペントハウスだよ。ごく仲間内しか使えないんだけどね。もう4、5人先に行ってるはずだよ」
「私なんかが入れる場所なの?」
「僕が一緒に行けば大丈夫」
今夜は思いっきり解放感に浸りたかった真弓は、言われるがままに、道也の後をついていくことにした。エレベーターに乗り込み道也がカードキーを差し込むと、それまで消えていたRのボタンが点灯し、二人を屋上のペントハウスへと運んで行った。VIPに選ばれた優越感と、秘密の予感に真弓はドキドキしていた。

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