8.うしろをやられた日

肉の記憶 麻里子二四歳

その日の麻里子はシルク素材の藍色のシャツ・ジャケットを羽織って来た。ルーズなジーンズの裾を捲り上げ、麻のサンダルから覗く素足には、同じ藍色のベデュキュアが光っていた。

例によってTシャツと白いタンクトップを下に重ね着しているものの、シルクのシャツ・ジャケットは麻里子の動きに応じて、時折、ぴたりと体に張りついた。するとシャツの下に隠されたボリュームたっぷりの体の曲線が露になるのだ。それがたまらなくエロくて、鉄男は早くも興奮してくるのだった。

いつも通り麻里子の提案で、二人はもう顔馴染みになってきた個室居酒屋に行くことにした。

「カウンターの部屋、空いてる?」

店に着くなり鉄男はスタッフにそう聞くと、麻里子を見てニヤリと笑った。麻里子は視線を外し、恥ずかしそうに頬を染めた。

生憎とカウンターの部屋は先客で埋まっており、二人は普通の小部屋に案内された。

「カウンターじゃなくて、残念だね」

「もうあの部屋はいいよ。危なくてしょうがない」

麻里子が笑いながら言った。

「あそこは絶対にやり部屋なんだよ。きっと店員も知ってると思うよ」

「えー?」

麻里子が目を丸くして驚いた。

「じゃあ、私たちもバレてるってこと?」

「オレたちはトイレでやったから大丈夫でしょう。でも、平気で部屋でやっているカップルは相当いると思う」

「それはないよ」

「いるよ。今もやってるかも」

鉄男の突拍子もない意見に麻里子が笑った。

「じゃあ、鉄ちゃん覗いてきてよ」

「いや、オレはその趣味はないんだ」

「ええ?それは意外だな。覗きに興味が無いなんて、変態大魔王の言葉とは思えない」

麻里子がいたずらっぽく笑った。

「でもね、麻里子の部屋なら覗いてみたいね。裸で着替えるところとか、一人で、お風呂で体を洗っているところとかを覗いてみたいね」

「出た!やっぱり変態。私の裸なんか、もう散々見てるじゃない」

「誰もいないところで、たった一人の時にどうなっているかが見たいわけよ」

鉄男がニヤついた。

「どうもなってないよ。いつもと同じだよ」

「それ以外にも下着をどうやってつけたり外したりするかとか、お風呂ではどっからどうやって洗うのかとかね」

「バッカじゃないの。何考えてんだか」

麻里子が呆れ顔で言い放った。

「それはそうと今日の下着は?」

「また始まった。そんなの教えないよ」

もう二人の定番の遊びとなっている鉄男の質問に、麻里子がそっけなく答えた。そしていつも通りに麻里子の答えを無視して、鉄男が続けてきた。

「色は何色かな?」

「自分で考えてよ」

「白?」

「違うよ」

「赤だ」

「あのね。今日の服装で赤い下着はないでしょ。まだ基本が分かってないな」

麻里子が呆れて笑い出した。

「じゃあ、青だ」

「外れ!今日は紺色だよ。濃い紺色」

「いいねぇ。で、どんな形しているの?」

「いやだよ、教えない。それにここでは絶対に見せないし、触らせないからね」

麻里子が先回りして釘を刺した。

「分かったよ。見せろとか触るとかは言わないけど、ちょっと聞かせてくれよ。頼むよ、ちょっとだけ…」

いつもの鉄男のしつこさに、麻里子が根負けした。

「あのね、ブラは寄せてあげるようなカチッとしたやつ。もう胸の谷間が凄いことになってる。ふふふ」

おどけた麻里子の物言いに、鉄男が笑った。

「それで下はね、前から見るとブーメランみたいに細くて、お臍の下で体に貼り付いている感じだね。もう超ビキニです」

「うわー、我慢できないよ」

「まあ、後でのお楽しみだね」

麻里子がニンマリと笑った。

次々と料理が運ばれてきて、いつのもように焼酎のボトルが空いた。すでに目の淵をほんのりと桜色に染めている麻里子が、鉄男の顔をのぞき込んだ。

「ねぇ、鉄ちゃん。ところで私になんか言うことがあるんじゃないの?」

鉄男は心を見透かしてきた麻里子にドキリとした。

「今日の鉄ちゃんは怪しいね。どことなくソワソワしていて、なんか隠している感じがする」

「どうして?」

「気配が違うもん。私には分かる」

麻里子が身を乗り出すようにして、顔を近づけてきた。その探るような強い視線に、鉄男はタジタジになった。

「実はお願いがあるんだ」

「なに?」

鉄男は思い切って話を切り出した。

「実は麻里子のバージンが欲しいんだ」

突然の言葉に麻里子が吹き出した。

「何言っているの。私は高二の夏にやっちゃったって話したじゃない。そんなのタイムマシンでもないと無理に決ってるじゃない。鉄ちゃん、飲み過ぎてる?」

ツボに入ったらしくケタケタと笑い続ける麻里子を遮るように、鉄男が切り出した。

「麻里子はバージンなところあるじゃない。まだ誰にも許していないところ」

鉄男の言葉に麻里子がキョトンとして、目を丸くした。

「オレは麻里子のお尻の処女が欲しいんだよ。麻里子とアナル・セックスがしたい」

「ええ!」

麻里子がみるみる赤くなっていった。

「やだぁ。そんなの無理だよ。前にも言ったけど、入らないし絶対に無理だって」

「いや、無理じゃないよ。物理的には普通にできるんだ」

「鉄ちゃん、したことあるの?」

「あるよ」

「誰と?前の奥さん?」

麻里子の表情が一瞬、険しさを見せた。

「いや違う。学生の頃だよ」

「分かった。ナンパした子でしょ」

「そうじゃない。学生の頃つきあっていた彼女だよ」

「…」

急に無言になった麻里子に、鉄男は昔の恋人のことを話し始めた。すでに進学する大学が決まった高三の春休み、鉄男は信州のスキー場でアルバイトをした。そのときに知り合ったのが初めての恋人となる由美子だった。細面で長い髪の由美子は、まるでアニメに出てきそうな典型的な美少女だった。すぐにアルバイト仲間のアイドルとなった由美子だったが、なぜか鉄男と気が合い、ふとしたきっかけから二人は付き合うようになったのだ。由美子は地方都市の出身だったが、ちょうど女子大に通うために、その春から東京で一人暮らしを始めるところだった。東京に帰ってきてからも、二人はデートを重ね、いつしか深く愛し合うようになっていった。

「凄く相性がよくて、何でも二人で一緒にやると楽しかった。お互い異性と付き合うのは初めてなのに、男女の垣根がなくて、なんでも正直に喋れる相手だった」

「キスは?」

麻里子が少し怒った口ぶりで聞いてきた。

「お互いが初めてだった」

「エッチも?」

「沢山したよ。二人共経験がなかったけど、女の子がどうすれば気持いいかを教えてもらったし、男がどうして欲しいかも教えた」

「なんかイラっとくる話だね」

麻里子が口を尖らせて言った。

「確かにめったにない相性のいいカップルだったかもしれない」

「それでお尻もしたんだ」

麻里子が睨んだ。

「したよ。ありとあらゆることをしたよ」

「もういいよ、分かったよ。なにその話」

麻里子が突然、怒りだした。みるみる顔が赤くなり、目に涙が溜まっていくのが見えた。

「だったらその人と結婚すればいいじゃない。そうすれば、鉄ちゃんはここにいなくてもいいじゃない。早く行って、その人を追いかけてきなよ」

「結婚は出来ないよ。だって交通事故で死んじゃったから」

「ええっ」

麻里子の頬を涙が伝った。それは偶然のタイミングだったが、鉄男には麻里子が由美子のことで泣いてくれているように思えた。

「大学四年の時に、交差点の歩道に突っ込んできた車にはねられた。運転して人は老人で、心筋梗塞を起こしていた。由美子を轢いた時には、本人も死んでいたらしい」

「…ひどいね。それはひどいね」

麻里子がポツリと言った。鉄男は忘れていた由美子のことが急に蘇り、胸がつまりそうになった。

しばらく何も喋らずに、二人は見つめ合った。

「わかったよ。鉄ちゃんにあげるよ」

麻里子がきっぱりと言った。

「私のバージンをあげるから、ちゃんとうけとってよ」

麻里子はそう言うと、やさしい笑みを浮かべた。その笑顔は湖に広がる波紋のように広がって、鉄男をやさしく包み込んだ。

ホテルの部屋に入るなり鉄男は麻里子を抱き上げた。そしてダブルベッドに座ると、膝の上に麻里子を抱きかかえた。

「ねぇ、キスして」

鉄男は、キラキラした瞳で見上げてくる麻里子の口唇を奪った。柔らかい口唇を割って舌を滑り込ませると、麻里子が応えるように吸い上げてきた。お互いの舌を、音を立てて吸い合いながら、鉄男は麻里子のシャツの前ボタンを外していった。そしてベッドの上に仰向けに横たえると、ジーンズのホックとファスナーを開け、ゆっくりと引き下げた。麻里子の真っ白い下腹に、濃紺のパンティが食い込んでいるのが見えた。それは麻里子が言ったように、ブーメランのような形で白い下腹に張り付いていた。

ジーンズを剥ぎ取った鉄男は、シャツとその下のインナーも剥き上げた。かっちりと食い込んでいるブラが、いつも以上に深い谷間を作っていた。

「凄く綺麗で、エロいね」

「ありがとう」

麻里子がはにかんだ。下着姿の麻里子を再び抱き上げると、鉄男は浴室に向かった。

「鉄ちゃん、背中を流してよ」

向かい合った湯船の中で麻里子が甘えてきた。

「昔、子供の頃に両親やおじいちゃん、おばあちゃんとお風呂に入ると、背中をゴシゴシ洗ってくれたの」

「麻里子はそれが大好きだったんだ?」

こっくりと頷いた麻里子を抱え上げて、鉄男は洗い場のスツールに座らせた。雪のように白い背中を、鉄男は泡だらけのスポンジで丹念に流してやった。

「どう?気持ちいい?」

「うん。気持よすぎて寝ちゃいそう」

「じゃあ、もっといいことしてあげる」

そう言うと鉄男は両手に泡をたっぷりつけて、麻里子の脇の下から前へと回した。そして泡だらけの素手で、やさしく乳房を揉みほぐした。

「ああん。だめだよ」

そういいながら麻里子は鉄男の体に体重を預けてきた。肩越しに見える浴室の鏡に、泡だらけになった麻里子の乳房が写っていた。それを縦横無尽に揉みしだくと、乳房がまるで逃げるかのように膨らみの形を変えた。その先端はすでにコリコリにしこっていた。

とうとう鉄男の両手が麻里子の乳首を捉えた。そして掌の中で潰すように揉み込んだ。

「ああん、だめ。凄いよ。それ凄すぎてだめになっちゃうよ」

麻里子がうわ言をいいながら喘ぎだした。

「本当にオッパイが感じやすいね」

「やだ。そんなこと言わないで」

口ではそう拗ねながらも、首から上を桜色に染めた麻里子は、もう夢見心地の顔つきになっていた。

風呂から出た麻里子は、ベッドの上にうつ伏せになった。大きな枕に顔を埋めて、心からリラックスしている様子だった。体の中でもひときわ白く、ボリュームのあるお尻が、桃のような半球形を描いて突き出ていた。鉄男は膝裏のあたりをまたぐようにして、麻里子のお尻に顔を近づけた。お風呂で温まったお尻が湯気のような熱を発していて、石鹸の香りに混じって、麻里子の甘い匂いをほのかに漂わせていった。

鉄男は両手をお尻に当てると、背中の方へ持ち上げるようにして割り開いた。谷間の中にピンクがかった紫色のアヌスがひっそりと息づいていた。その奥には一筋の畝のように肉の口唇がぷっくりと盛り上がっているのがはっきりと見えた。

「はああん」

秘密の場所を覗かれる恥ずかしさに、麻里子が、息が抜けるような声をあげた。鉄男はアヌスに口唇をかぶせると、ゆっくりと舌を使い出した。

「あん。はあああ。あん」

舌の動きにあわせて、麻里子が小さな喘ぎ声をあげた。鉄男はねっとりと舐め上げながら、右手を前に回し、クリをさぐった。思った通り、クリはすでにつぶっと膨らんでいた。鉄男は人差し指と親指で摘まむと、まるでコヨリを撚るようにクリを可愛がった。

「だめ。それ。あん、おかしくなっちゃうよ」

麻里子の反応がエスカレートとしてきた。それを追い上げるように、鉄男は舌先と指先を連動させて麻里子を責め続けた。

「もうだめ。ああん、マリいっちゃう」

突然、内股に力をいれると、麻里子は体を反り返らした。小刻みに震えながら、ついに麻里子は絶頂に追い立てられたのだった。肉襞から漏らした涎が、シーツの上に大きなシミを作っていた。

麻里子が追い上げられた後の余韻に浸っている中、鉄男は右手の親指に用意したあったローションを塗りつけた。そして脱力している麻里子のアヌスにゆっくりと沈めていった。

これまでの通常のセックスの中で、鉄男は中指の第二関節までを沈めて、麻里子のアヌスをいたぶってきた。その成果で、麻里子は中指まではなんなく受け入れられる体になっていた。そこでまず、今夜は親指からスタートすることにしたのだった。

「ああ、だめぇ」

親指でアヌスを広げられた麻里子が、かすれた声でお願いしてきた。

「痛い?」

「平気だけど…なんか怖い、変な感じなの」

「ゆっくりと息を吐いてごらん」

そう命令されて、麻里子が息を吐き始めた。親指を締め付けるアヌスが、少しずつ緩んでくるのが分かった。そのタイミングを逃さずに、鉄男は親指を埋め込んだ。

「ああ、凄い…だめ、だめよ」

麻里子がうわ言のように喘ぐ中、鉄男はゆっくりと親指を回転させた。それと同時に左手でクリをいじり続けることも忘れなかった。

(快感の中でアヌスをほぐしてやるから、もっといい声を出して泣いてごらん)

鉄男は前と後ろの動きを連携させながら、再び麻里子を追い詰めていった。麻里子がお尻の肉をブルブルと震わせながら、よがり声を上げ始めた。

ついに鉄男は中指に人差し指を添え、その二本を丸々アヌスに埋め込むことに成功した。さすがに最初は締め付けがキツかったが、ゆっくりと回しながらピストンすると、麻里子のアヌスが生き物のようにまとわりついてきた。

(よし、もう大丈夫だ)

一旦指を引き上げると、鉄男は麻里子を仰向けにさせた。そして両足の膝後ろに手をあてると、すくようにして麻里子を大股開きにしていった。

「ああ、凄い。鉄ちゃん、恥ずかしいよ」

麻里子の言葉を無視して、足の裏が天井を向くまで持ち上げた。肉襞の奥に、さきほどまでいたぶっていたアヌスが丸見えになった。そこは何度も塗りこんだローションで光っていた。

「マリ、いくよ」

「…」

麻里子が無言で頷いた。

鉄男は硬くなったものの先端をアヌスにあてると、ゆっくりと押し込んでいった。まるで待っていたかのように肉の扉が広がって、鉄男の先端をくわえ込んでいった。明るい部屋で大股開きにされるのが恥ずかしいので、麻里子はしっかりと目を閉じていた。その表情が険しくなっていた。そして一番太い部分を飲み込む時が近づくと、眉間に深いシワが刻まれた。

「大丈夫だよ。息を吐いて、力を抜いてごらん」

「…うん」

麻里子が大きく吐く息にあわせて、鉄男がさらに腰を進めた。ついに鉄男のものがスルリと抜けるようにして、麻里子の中に収まった。

「ああ、凄い。鉄ちゃん、凄いよ。壊れちゃう」

眉間にシワを刻みながら、麻里子が訴えてきた。

「痛い?」

「大丈夫。痛くないけど、…怖い」

「心配ないよ。もう全部入ってる。もう痛いことはないから」

鉄男の言葉に、麻里子はようやく表情を緩めた。それを見た鉄男は、ゆっくりと腰を使い出した。

アナル・セックスの醍醐味は入り口の締め付けだ。アナルの入り口がピストンに応じてよれるようにまとわりつき、強く締め付けてくる感覚がなんともいえない快感をもたらしてくれる。さらにアナルで繋がっている、お尻を犯しているという背徳感が、背中がゾクゾクするような感覚を味合わせてくれるのだ。

(あの小暮麻里子の尻を、オレが初めて掘っているんだ)

その征服感、背徳感が、鉄男をどんどん追い上げていった。

「鉄ちゃん。ねえ、オッパイもして」

鉄男の執拗な腰使いにようやくアヌスが練れてきた麻里子が、いつもの様に甘えてきた。鉄男は膝をすくっている両手を伸ばすと、乳房をがっちりと握りこんだ。そしていつものように腰の動きにあわせて、しごくように揉み込んでやった。

「ああ、あん、ああ、あん」

麻里子が大きな声で喘ぎだした。そこにはアナルから来る快感も含まれていることを感じさせた。

「いい、いい、凄くいい」

麻里子がうわ言のように言い始めた。

「お尻が気持ちいいんだね」

鉄男の問いかけに麻里子がいやいやと首を振った。

「ちがう…分からない、けど…」

(アナルを掘られていかされそうになっている、いやらしい自分を認めたくないんだな)

鉄男はさらにねちっこく腰をつかっていた。

「あああん、鉄ちゃん、お願いキスして」

ついに麻里子が音を上げた。鉄男は麻里子の口唇を奪うと、舌をさしいれた。麻里子が凄い力で吸い上げてきた。

「うぐぐぐぐ」

くぐもった声を上げながら、まるで鉄男の舌を飲み込む勢いで、一心不乱になった麻里子が舌を吸い上げてきた。

「ううう」

ついにたまらなくなった鉄男は、精汁を麻里子の中にぶちまけた。

「あん」

力を失った鉄男が抜け落ちた時、麻里子が甘えた声を出して、抱きついてきた。それに応えるように鉄男も麻里子をぎゅっと抱きしめてやった。汗でほどよい湿り気がする柔らかい肉が、鉄男の体に張り付いてきた。

「麻里子、ありがとう。凄く気持ちよかったよ」

麻里子は目を開けずに、柔らかく微笑んだ。

「麻里子はどうだった?どんな感じだった?」

「ふふ…」

鉄男の問いかけに、麻里子はただ微笑みを返すだけで答えようとしなかった。

「ひょっとして痛かった?」

「痛くはなかった」

目を開くと、麻里子がようやく喋り出した。

「痛くないけど、最初は変な感じで、ちょっと苦しい感じがした」

「それで?」

「言いたくないよ」

麻里子が恥ずかしそうに視線を外した。

「鉄ちゃんがよければ、私はそれでいいんだ。もう恥ずかしいからこの話はおしまい」

そういって麻里子がキスしてきた。それは小鳥が餌をついばむような、小さな、繰り返すキスだった。

「ねえ、変なことひとつ聞いていい?」

「なに?」

「鉄ちゃんの死んだ恋人って、胸も大きかった?」

「大きくないよ。前に言っただろ。麻里子の胸やアソコは、オレが見た中で一番綺麗だって。それに嘘はないよ」

「ありがとう。ほめてくれてうれしい」

「もう死んでしまった人のことは忘れよう」

鉄男がそう言うと、麻里子がうなずいた。

「じゃあお返しに、オレも気になっていることを聞くけど、ブラジルしちゃった麻里子を見て、彼氏はなんて言った?」

それは鉄男が前々から気になっていたことだった。鉄男の要求を受け入れて、アンダー・ヘアを脱毛してしまったことに、麻里子の同棲相手はどう反応したのだろうか。

「なんにもないですよ。だって知らないから」

麻里子は事も無げに言った。

「だって、見せないし、触らせないし、舐めさせないし、…それにしてないし。だから何の問題もありません」

あっさりした答えに鉄男は拍子抜けした。

「もう彼の話は終わりにして下さい。それより今度は鉄ちゃんがマリの言うことを聞く番だよ」

麻里子がいたずらっぽい顔になった。

「どうすればいいの?」

「今度は普通にして。それで朝までマリを寝かさないでよ。朝までメチャメチャにして欲しい」

「わかったよ」

麻里子の言葉に力が漲ってきた鉄男は、腰をすえると、麻里子の太腿を割り開いた。そこはすでに十分に潤っており、鉄男を待ち構えていた。

その日の二人は夜が白むまで、狂ったようにお互いを貪り合った。舐め合い、しゃぶり合い、繋がり、ほとんど会話をすることなく、お互いをさらけ出して求め合った。そしてどちらともなく、満ち足りた眠りに落ちていった。

気がつくと窓を覆う遮光カーテンの隙間から、外の光が差し込んでいた。鉄男はベッドヘッドにあるデジタル時計に目をやった。時刻は朝の七時半だった。

傍らでは麻里子がこちらに背中を向けて寝ていた。肩まで綿のブランケットをかけて、麻里子は規則正しい寝息をもらしていた。

鉄男はそっとベッドを出ると、浴室に向かった。心ゆくまで麻里子の身体を味わい、深く眠った後の熱いシャワーは快適だった。鉄男はバスローブを羽織って浴室から出てくると、ベッド中の麻里子をうかがった。麻里子は相変わらずベッドの外側をむいて横向きに寝ていた。鉄男は足音を忍ばせてベッドに近づくと、麻里子の寝顔を覗きこんだ。

スッピンの麻里子の寝顔はツルツルの白い肌で、不思議なことに化粧をしている時より美しかった。すっきりと通った鼻筋に、長い睫毛、そしてふっくらとした桜色の口唇を見ているうちに、鉄男はムラムラとしてきた。鉄男はそっとひと差し指を口唇に伸ばすと、ゆっくりと口唇をなぞった。

「はああん」

そのほのかに湿った口唇の感触を楽しんでいると、麻里子が急に顔をしかめ寝返りをうち、完全に仰向けになった。鉄男はこれ幸いと、麻里子の肩からブランケットをゆっくりと剥いでいった。カーテンからこぼれる朝日の中に、麻里子の裸体がじょじょに現れた。

(乳房の盛り上がりといい、腰のくびれといい、太腿の張りといい、何度見てもすごい身体だ)

鉄男は素っ裸でベッドに横たわる麻里子を眺めながら、改めて唾を呑み込んだ。くっきりとくぼみを作っている鎖骨の下には、両の乳房が型崩れせずに大きく盛り上がっている。その先端には、ピンク色の乳輪の花が咲いていた。ぐっとくびれたウエストの下に、大きく飛び出した腰のライン、そしてお臍の下には柔らかい下腹が曲線を描き、ビキニラインの合わせ目には、こんもりとした丘が形作られていた。ヘアを全て処理しているので、その丘の中心には女の子の切れ込みが露わになっていた。むっちりとした太腿は、その下の小さな膝と白い脛へと流れる脚線美を作っていた。

鉄男は口唇の先に唾液をためると、乳輪に顔を寄せ、触れないようにギリギリまで近づくと、そっと唾液を垂らした。そうやって両の乳輪を湿らせてやると、むくむくと乳首が立ち上がってきた。

「あああん」

麻里子が無意識のうちに右腕を上げ、ため息を漏らしながら乳房を隠した。

「ああ、なんか変な夢を見た」

ぱちりと音を立てるように目を開いた麻里子が言った。

「それは半分、夢じゃないな。なぜなら麻里子のここは、とっくに濡れてグズグズになってるよ」

「やだもう…」

鉄男は両足首を持って大きく割り開くと、その中に飛び込むように腰をいれこんだ。そして狙いすましたように一気に麻里子を貫いた。

「はん」

喘ぎと叫びの中間のような声を出して、麻里子がしっかりと受け止めた。そして咥え込んだ鉄男を離すまいと、両足をきつく絡め、鉄男の動き併せて腰をあおりはじめた。

「いい、いい。凄くいい。もうダメ…死んじゃうよ」

麻里子があっというまに登りつめた。

(ひょっとしたらこのまま再婚もアリかな?今の彼とはうまくいってないらしいし、もう一年以上セックス・レスだっていうから。麻里子となら体も性格も相性はバッチリだし、きっと上手くいく…)

絶頂に登っていく麻里子を眺めながら、鉄男はそんなことを考えていた。そして貪欲に快感を貪る麻里子に長い、長いキスで応えながら、鉄男は結婚というゴールをぼんやりと想像していたのだった。

しかし、そんなに甘くないのが世の中の常だった。

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