13.愛し合う二人

隷属の沙希子

十二月に入って間もなく、タモツが夕餉の食卓でシャンパンを抜いた。その日は鳥の腿焼きがメイン・ディッシュで、食後にはクリスマス・ケーキが出てきた。
「ちょっと早いけど、今晩はクリスマス・ディナー」
お酒に弱くビール一杯がせいぜいな沙希子は、シャンパンの口当たりの良さに騙されて珍しくしたたかに飲み、食べ終わる頃にはすっかり酔ってしまった。
酔って夢うつつになった沙希子を抱き上げると、タモツはそっとベッドに横たえ、脇に寄り添った。
「ひとつ聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「沙希子はひょっとして、お尻を叩かれるのが好きだろ?」
不意の質問に、沙希子は驚いた。そして答える代わりに枕の中に顔を埋めた。
「答えろよ」
「秘密」
「いいじゃないか。教えろよ」
「絶対にだめ」
「じゃあ、試しにお尻を叩こうかな」
「いや、だめよ」
枕に埋めた顔をタモツに掘り起こされた沙希子は、酔いの勢いに任せて、とうとうお尻の秘密を白状してしまった。
「誰にも言ったらだめだからね」
「約束するよ。絶対に秘密は守る」
タモツはそういうと沙希子に覆いかぶさり、両手のひらで沙希子の顔をはさんで優しいキスを何度もくれた。久しぶりにタモツの体重と体温を全身に感じた沙希子は、ようやく自分が欲しかったものに気づいた。
(これだ。この感じが好きだ)
沙希子はタモツの大きな背中に手を回して、幸せな眠りについた。

「沙希子に料理を教えておくんだったな」
テレビが今年一番の冷え込みを告げた朝、タモツが突然そう切り出した。
「オレがいなくなったら、沙希子はちゃんとしたご飯を食べなくなりそうだ」
タモツの言葉に沙希子はドキリとした。
「あと三日だろ。オレは、約束は守るから」
玄関でタモツにそう言われた沙希子は、胸の中にざわつきを覚えた。
会社に向う電車の中で、沙希子は考えた。
(あと三日で約束の半年だった)
沙希子はそのことを忘れている自分に驚いた。
(あと三日で解放される。あと三日で置き去りにされて、私はまたひとりぼっちだ)
会社についてからも沙希子は仕事が手につかなかった。なぜか解放の喜びよりも、置き去りにされる悲しみが込み上げてくるのだ。さらに身体じゅうを柔らかく包みこむタモツの指や舌の感覚が、沙希子の中でありありと蘇るのだった。身体の芯がじんじんしてきて、仕事どころではなかった。気を紛らわすために姿勢を正そうと身体にぐっと力をいれると、沙希子の中にタモツの形が蘇った。それは現実のものと同じくらい、沙希子の中にはっきりと刻みつけられていた。
(いやだ。私の秘密を全部知っていて、こんな身体にしておいて、それなのに私を置き去りにするなんて許せない。そんなこと絶対にさせない)
沙希子は早退届を出すと、会社を飛び出した。
街は間近にせまったクリスマスの色に染められていた。思えば田川と結ばれたのもクリスマスだった。しかしその思い出は、沙希子の中ですでに色あせ、粉々に砕け散ってしまっていた。そんなものとは比べようのない大きな存在が、沙希子の胸の中でどんどん膨らんでいたのだ。
電車を待つのももどかしかった。ようやく来た電車に飛び乗り、駅に辿り着くと、沙希子はマンションまでコートをなびかせて走った。
部屋にたどりつき玄関の扉を開けると、突然の帰宅に驚いたタモツが廊下に立っていた。沙希子はタモツをじっと見つめながら玄関にコートを脱ぎ棄て、靴を跳ね飛ばすとタモツに抱きついた。
「いや、一人にしないで」
沙希子はタモツを壁に押し付けると、タモツの顔を両手で挟み込んだ。そしてタモツの唇を奪うと、舌を思い切り差しいれた。沙希子の舌がタモツの中でくねくねと暴れた。タモツは沙希子の舌をなだめるようにやさしく包み、しっとりと吸い上げた。沙希子が舌で誘った。タモツが沙希子の舌を追いかけていくと、沙希子が強烈な勢いでタモツの舌を吸い上げた。まるでタモツを呑み込むかのように、沙希子はタモツの舌を強く吸い続けた。ようやく沙希子が唇を離すと、唾液が糸を引くように二人をつないだ。
「好きよ。大好きなの」
沙希子はタモツのトランクスの中に手を入れて、タモツを握った。それは熱く脈打っていた。
「ねぇ、して。沙希子をめちゃめちゃにして」
タモツは身体を入れ替えると、沙希子を壁に押し付けて、スカートを跳ね上げた。ストッキングとパンティを一度にむしり取ると、沙希子の花びらに手を伸ばしていった。沙希子は内股までべっとりと濡らしていた。タモツは沙希子の片足をすくうと、沙希子を大きく開いた。タモツを握っている沙希子の手が、それを自分の花びらまで導いた。タモツは腰を沈めると、一気に沙希子を貫いた。もう片方の足もすくい上げると、タモツは沙希子を壁に押し上げた。沙希子の両腕がタモツの首に強烈に絡みついた。
「だめ、どこへもいっちゃだめ」
タモツの突き上げに合わせて、沙希子は腰をうねらせた。
「いい、すごく気持ちいい。大好きよ」
沙希子は初めて喜びの言葉をはっきりと口にした。タモツは沙希子を貫いたまま、寝室まで運んでいった。
「あああ、いい。全部ちょうだい」
沙希子が大きく身体をそらすと、タモツを激しく喰い締めてきた。タモツは沙希子の中に全てを放った。
(これでいい。この人の身体は誰にも渡さない。永遠に私のものだ)
沙希子は最高の幸福感を味わった。

ベッドの中で沙希子はタモツの耳たぶに唇をよせ、甘噛みをくりかえしていた。それは余韻を楽しみつつ、次を催促する仕草だった。
「この前、沙希子の恥ずかしいお尻の話を聞いたよね」
「うん」
「だからオレも恥ずかしい話をしておくよ」
「なに?」
沙希子はタモツのお腹の上にまたがると、タモツの顔をはさむようにベッドに両腕をついて、真上からタモツの顔を見下ろした。裸の大胆な姿勢にちょっと恥じらいながら、沙希子はタモツの目をじっと見つめた。その黒い瞳の中に、タモツは吸いこまれそうだった。
「沙希子が病気してから、オレは沙希子の中に一度もしなかったじゃない。どうやって我慢したか知ってる?」
「我慢してたの?」
沙希子は驚いて、瞳をクリクリ動かした。
「凄くしてたよ。だからこっそりとトイレで出してた。自分で出してたんだ」
沙希子の顔がみるみる赤くなった。
「バカ」
「そうしなきゃ我慢できない。頭がおかしくなっちゃうよ」
沙希子はタモツの胸に顔を埋めた。
「いっぱいしていいよ。沙希子にいっぱいして」
タモツの股間に後ろ手を伸ばすと、沙希子はタモツを握りしめた。そして身体をゆっくりと後ろにずらしながら、熱く潤っている自分の中に導いていった。
(全部私が貰うから、一滴も残さずに出してね。あなたは私のものだから)
沙希子はふたが外れてしまったように濡れ続けた。タモツも狂ったように勃ち続けた。
その日、二人は食事もとらずに明け方まで愛し合った。

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