二月のある朝、タモツが目を覚ますと、目の前に沙希子の顔があった。
「タモっちゃん、おはよ」
沙希子はにこっと笑い、思いがけないことを口にした。
「婚姻届貰いに行こうよ」
タモツはキツネにつままれた気分で、沙希子に急かされて服を着ると、区役所に連れて行かれた。
「今日、書いて出さないと絶対ダメよ」
沙希子がそう言い張るので、タモツは勤めていたあの探偵事務所の社長に、沙希子と二人で保証人を頼みに行くことになった。タモツの戸籍謄本はいつの間にか沙希子が用意してあった。その手回しの良さに、タモツは舌を巻いた。
親の仕事を手伝って、タモツが漁師になっているものだと信じ込んでいた社長は、タモツがいきなり婚姻届を持って、可愛らしい女の子と二人でやって来たのに驚いた。事情を話すと社長は快くサインしてくれ、経理を担当している番頭格の男をもう一人の保証人にしてくれた。
沙希子がトイレに立った時に、社長がタモツにこうささやいた。
「お前、仕事では見どころがあると思っていたけど、女を見る目もなかなかだな。あの娘は気立てがいい。大事にしてやりな」
タモツは社長が微笑むのを初めて見た。
「仕事はどうすんだ。よかったらうちでやらないか」
「考えさせて下さい」
思いがけない社長の好意に胸を熱くして、タモツは沙希子と手をつないで婚姻届を出しに行った。
「もう一度、探偵をやろうと思う」
「絶対にいや。危ない仕事はして欲しくないの」
部屋に帰ってからタモツが切り出した提案を沙希子は一蹴した。口ではタモツが危険な目に会うのが心配だといいながら、実は沙希子はタモツが家を空けることを許す気はなかったのだ。
(一人の自由時間なんか持たせない。そんな時間を持たせるから、他の女に目がいく隙ができるのよ。私は絶対に許さない)
本心を言えば沙希子はタモツを家に閉じ込めておきたかった。それだけの財力を沙希子は持っていた。しかし部屋に閉じ込め自分の身体を与え過ぎて、タモツがそれに飽きるのも恐かった。
(ちゃんと見張ることが出来て、二人の生活にスパイスになるような仕事を見つけなくっちゃ)
その解答を沙希子はすでに見つけていた。
「それより二人でお店をやろうよ。タモっちゃんは料理が上手だし、沙希子も頑張ればウェイトレスくらいできるから」
「でも、金がない」
タモツは自分の預金通帳を出して、沙希子に渡した。沙希子の部屋に来てから、ずっと無収入だったタモツはかなりの金額を使っており、残額は百万円を切っていた。
「まかしといて。足りない分は私がなんとかするから」
通帳を受け取った沙希子は、そういって嬉しそうに笑った。
一途な性格なだけに、沙希子はこうと決めたら一気に突っ走る。あっという間に仕事を辞め、家の近くに店舗物件を探した。気が弱いと思っていた沙希子が不動産屋や内装業者とテキパキと打ち合わせする様を隣でつぶさに見て、その豹変ぶりにタモツは驚いた。
「いつもタモっちゃんが隣にいてくれるから、安心してできるの」
沙希子はそう言い訳したが、実は、これさえ整えてしまえばタモツをがんじがらめにできるという決死の思いで、沙希子は頑張り抜いたのだった。
五月の若葉が茂る頃、沙希子の部屋から歩いて五分の場所に二人のカフェがオープンした。
「店名はローマ字でsakiにしよう」
タモツの提案に、沙希子は大喜びした。
そして三年の月日が流れた。
sakiは順調に売上を伸ばし、グルメサイトに紹介されるほどになっていた。サイトに表示される「可愛い奥さんと、腕の良い主人のカフェ」という見出しは、沙希子のお気に入りだった。
毎朝十時にタモツと沙希子は、手をつないでお店にやってくる。沙希子は部屋にいる時はもちろん二人で歩く時も、手をからめたり、握ったりと、ひと時もタモツから離れようとしない。例えば雨の日には、沙希子は自分の傘を手に持つだけでささず、タモツの傘の中に割り込んで来るほどだった。
ランチをはさんで二時までがお店の昼の部だ。タモツが工夫を凝らすランチやスイーツは大評判で連日売り切れになった。沙希子のウェイトレスぶりも好評で、近所の金持ち老夫婦たちが、まるで我が娘を可愛がるように沙希子のファンになっていた。
二時になると一旦お店を閉めて、二人は自宅に戻る。そこで遅い昼食をとったあと、沙希子の大好きなお昼寝タイムに突入するのだ。二人とも裸でベッドに入ると、毎日、身体じゅうを確かめ合うのだった。ベッドの中で、沙希子は必ずタモツを握ってくる。一緒にお風呂につかる時はもちろん、夜眠る時も沙希子はタモツに腕枕されながら、タモツを握って眠るのだった。
「こうしないと不安で眠れないの」
沙希子は甘え顔でタモツに告白するのだった。
夕方の五時、ベッドの中で名残惜しそうにしている沙希子を置いて、タモツは再びお店に出勤する。ここからがお店の夜の部だった。
「タモっちゃんには沙希子の手作りの夕飯を食べてもらいたい」
そう沙希子が言い張るので、当初夜の部では、沙希子の代わりにウェイトレスを雇うつもりだった。しかし面接に来た女子大生を見て、夜の仕事だから女の子を雇うのはやめようと沙希子が言い出した。もちろん本当の理由は、沙希子の焼きもちだった。
(毎日、若い女の子を目の前にぶらさげておくなんて、とんでもない。どんな男だって、胸やお尻を見るようになるに決まっている。そして取り返しのつかないことになるのよ)
結局、沙希子が面接した若い男の子のアルバイトを雇うことになった。
以来、歴代のアルバイトは全員男子だった。沙希子は人を見る目もあり、まじめで愛想のいいアルバイトが自然と集まってくる。それがお店の女性客に人気になっていた。
実は沙希子はアルバイト達に、タモツを誘惑する女性客がいないか密かにチェックさせていたのだが、タモツはまったく気づいていなかった。さらに店のカウンターの上には防犯カメラがついており、沙希子が自宅のパソコンから店の様子を見ることが出来る仕掛けになっていた。
夜十時半閉店を決めたのも沙希子だった。もっとも昼の部の売上だけでお店の全ての経費は賄えた上利益まで出ていたので、夜の部の売上はそのまま利益の上乗せになっていった。タモツはお店の経営状況がどうなっているかは全く知らなかった。
「すごく儲かってるよ」という沙希子の言葉をうのみにして、タモツは一切口出ししなかった。実際にお店は初年度から大きな利益を出し、大繁盛だった。
お店を始める時に、「何かあったら困るから」と沙希子に手渡された三万円が、今でもタモツの後ろのポケットに入っている。家計とお店の経理を一手に握っている沙希子は四六時中タモツと一緒にいることで、タモツの経済的な自立を完全に握りつぶしていた。
(私なしでは生きられなくする)
それが沙希子の目的だった。
夜の部が終わると後片付けをして、タモツは真っ直ぐに家に帰る。家に帰ると、ミニスカート姿の沙希子が主人を待ちわびた子犬のように飛びついてくる。
沙希子は外に出かける時やお店に出る時は必ずロングスカートで、たっぷりとした洋服の中に今でも体型を隠し続けていた。パンツ・ルックやジーンズさえも、お尻のラインが気になると言って決して履こうとはしなかった。しかし家ではタモツの好きなミニスカートを生足で履き、タンクトップやビスチェなど身体の線を強調した服装で、タモツを誘惑するのだった。下着もタモツに見せるために、色や形などを毎日工夫していた。
年を経るごとに沙希子の身体は色気を増していった。骨ばっていた肩や二の腕にも程良く丸みがつき女らしくなり、ウエストは美しいくびれを増していた。乳房やお尻も相変わらずぷりぷりと張り出し、タモツの指を弾き返すのだった。
タモツが店に出ている間に、沙希子は買い物や家事を済ませ、お店のカメラ映像をチェックしながら、夕食作りに腕を振る。時々、お店のカメラに酔った女性客が写ることがある。大きな胸をカウンターに乗せるようにして、タモツを誘惑するように見える時もあるのだ。その時、沙希子はすかさずお店に電話する。
「奥様から電話です」
そう取り次ぐように店員を教育してあるので、電話一本で妻の存在をアピールできる仕組みだ。そうやって危ない女性客を早めに撃退しながら、タモツ好みの服と下着に着替えて、沙希子はタモツの帰りを今か今かと待ち構えるのだ。
(胃袋をちゃんとつかまなくちゃ)
タモツに料理を教えられて、沙希子はみるみる上達していったので、夕食は日に日に豪華で美味しいものになっていった。
夕食を終えると二人は一緒にお風呂に入り、浴室やリビングやベッドの中で飽きることなくお互いを確かめ合った。
「まだ、子供は欲しくないの。タモっちゃんをとられそうでいやだから」
そう沙希子が言い張るので二人に子どもはなかった。
だが、実は、沙希子は一日も早くタモツの子供が欲しかった。子供が出来ればタモツとの絆はさらに深くなると確信していたのだ。ただ妊娠中や子育ての時期にお店を休んで、タモツを一人にするのが不安だった。常にタモツを独り占めにしておきたいという沙希子の思いは、それほど異常で強いものだった。
例えば沙希子はタモツに避妊具を使わせなかった。ゴムの中とはいえ、一滴たりとも自分以外に放つことを許さないのだ。毎日タモツを絞りたい、でも妊娠してお店を休むのは不安だ。沙希子の気持ちは揺れ動いた。
さらに妊娠と出産によって、自分の身体が崩れるのも心配だった。
(例えオッパイやお尻が垂れて、アソコがゆるくなっても、あなたは私からは逃げられないのよ。そんなことは許さない)
しかし、万一そうなった場合、張りのある身体をした若い娘にタモツの意識がいくのではないかと、沙希子は心底心配だったのだ。
結局、沙希子は自分が決めた安全日以外タモツを受け入れない代りに、口を使ってタモツをこってりと絞り上げることにした。
それは婚姻届を出した日の夜のことだった。
「ちょっと待ってね」
ベッドの中で沙希子はにこりと笑うと布団の中に潜り込んだ。そしていきなりタモツを口にふくむと、懸命になって舐め始めた。沙希子が自分から進んでそんなことをするとは思ってもみなかったタモツはびっくりして、初めての体験に異常に興奮した。やり方は稚拙だったが、それだけに沙希子の一生懸命な気持ちが伝わってきた。タモツは思わず沙希子の口の中で放ってしまった。沙希子はそれをごくりと飲み込むと、恥ずかしさに真っ赤なになりながら、布団の中から顔をだした。
「フェラチオ上手くなりたいの」
タモツの胸に顔を埋めて、沙希子が小声でつぶやいた。思い切ったあけすけな台詞は、沙希子の賭けだった。それは沙希子の大勝ちと出た。感激したタモツは、マキエに習った技を沙希子に教え込むようになった。
異常な所有欲をともなった一途に愛する気持ちがある分、沙希子はすぐにマキエの技を上回るようになった。
両手でやさしく支え持ってテラテラに光るまで舐めまわし、わざと喘ぎ声を洩らしながら深く咥え込む。さらに自分で乳房を揉みながら咥えてみせたり、乳房の間に挟み込みしごき上げたり、果てはごくりと飲み込んだ後に一滴も残すまいと口をすぼめて吸いつくなど、沙希子は売れっ子風俗嬢顔負けの技を喜んで身に付けていった。その姿にタモツはこの上なく興奮し、幸せを感じていた。同時にタモツが放つ量を口の中で確かめながら、沙希子も安心するのだった。
「オレもまだ子供はいらないな。というよりオレが子供になって沙希子のお腹の中に入ってみたいよ」
「じゃあ、タモっちゃんを沙希子の赤ちゃんにしてあげる」
沙希子はいたずらっぽく笑うと、片方の乳房に両手を添えて、タモツの唇に乳首を含ませた。
「カワイイ、本当に赤ちゃんみたい」
目をつぶって沙希子の乳房に吸い付くタモツの姿に、沙希子は嬉々として両の乳房を交互に与え続けるのだった。
(そうよ。あなたが吸っていいのは、私のオッパイだけよ。だから好きなだけ吸わせてあげる)
沙希子はこのまま寝ずに、一晩中でも吸わせてやりたかった。
「ねぇ、沙希子の胸、好き?」
沙希子は小声になって恥ずかしそうに聞いてみる。タモツが沙希子のどこが好きかを、折に触れ何度も、何度も、確かめるのだ。それは顔立ちや髪形、ものの言い方だけに留まらず、お尻や乳房や足の形など具体的な身体の細かい部分にまで及んだ。
時には恥ずかしそうに、時には怖々と、顔を真っ赤にして質問してくる沙希子に、タモツはいつもちゃんと答えるのだった。実際に今でも沙希子は自分の太腿が太過ぎて、お尻と乳房も大き過ぎるのではないかと悩んでいるので、特にそれに関する質問は三日に一度は出てくる始末だった。沙希子の身体の中で男にとって最大の魅力となる場所が、逆に最大の悩みになっていることが、タモツには可笑しくてならなかった。
「大好きだよ。いつでも触っていたいよ」
「ひょっとして、タモっちゃんは大きいオッパイが好きなの?」
「そうかもしれないな」
「よかった。でも危ないな。お店に巨乳の人が結構来るくるから」
そう冗談めかして言いながら、沙希子は常連客の中の胸の大きい女を連想し、心の中で激しい憎悪の炎を燃えたぎらせていた。本気で怒る素振りは決して見せないが、タモツを絶対に独り占めにするという強い気持ちを会話の中にはっきりと出し、それをタモツに毎日確認する。そして少しの綻びも許さず、危ない芽は素早くつみとるというのが沙希子のやり方だった。冷静に考えれば異常な所有欲が自分に向けられているのだが、タモツはそれに気づいていなかった。
「今度は沙希子の番」
そういって沙希子はタモツの乳首にむしゃぶりついた。
沙希子に乳首を舐められ、痺れるような感覚の中で、タモツは男も乳首が感じることを沙希子に教えられた。
ある夜ベッドのなかでタモツが聞いた。
「沙希子はオレなんかと結婚してよかったのかな?」
「どうして」
「もっとエリートで、良い男がいっぱいいるじゃないか」
「例えば」
「例えば…田川さんみたいな人かな」
タモツは心の奥底で、未だに田川のことが気になっていたのだ。沙希子は自分にとって嫌な話題が出たことをおくびにも出さず、恐る恐る聞き返した。
「タモっちゃんは、あの写真まだ持ってるの?」
「捨てたよ。沙希子が病気になるずっと前に、消しちゃったよ」
「よかった。私も、もう顔も忘れちゃった」
「ほんとに?」
沙希子がタモツの目を正面から見つめた。
「田川さんよりタモっちゃんの方が全然いいよ。比べ物にならないよ。私はタモっちゃんが世界一好きだから、絶対に離れない。だから諦めて、私は執念深いからね。他の女の人はもうだめだからね。」
そう言って、沙希子は抱きついた。
「一生くっついて離れない」
沙希子はタモツの腕の中で何度も、何度も囁いた。それは言葉だけではなかった。沙希子はタモツの身体の一部に食い込み、そのテリトリーをどんどん広げることに全力をかけているのだった。
沙希子の言葉に興奮したタモツが、荒々しく入って来た。沙希子のそこは、すでに十分潤っていて、花びらがうれしそうにタモツを咥えていく。沙希子の柔らかい女の膨らみに根元をぶつけるように、タモツは激しく突き入れる。それを受け止める沙希子は、自ら腰をあおり、タモツをより深い場所へと導いていく。
「ああ、いい。すごく、いい」
沙希子は身体を震わせ、タモツを離すまいと喰い締めるのだ。その瞬間に、タモツがどくどくと沙希子の中に放った。
荒い息を絡ませながら喜びの時間を共有した後、満足したタモツが沙希子の身体から離れようと動き出した。
「だめ。抜いちゃ、いや」
朦朧とした意識の中で、沙希子はそう囁くと、タモツの大きな背中に腕をまわしてがっちりと抱きつく。そしてがに股に開いた足を、外側からタモツの脛にからみつけるのだ。こうしてタモツが抜けないようにがんじがらめにしておいて、沙希子はタモツの耳を舐めまわす。
「好きよ。愛してるわ。沙希子を離さないで。…もっとして」
耳にぴたりと唇を当てて、そう囁くと、タモツは二人の間に手を割り込ませて、再び乳房をさぐって来るのだった。
(欲しいでしょ。沙希子をもっと欲しいでしょ)
タモツに乳房を揉ませながら、沙希子はタモツの耳元で囁き続ける。沙希子の中で、タモツがどんどん固くなっていく。沙希子はこの瞬間が大好きだった。
(タモっちゃんが私の身体に興奮している。大好きよ。ほら、もっと強くオッパイを揉んでいいのよ)
沙希子がさそうように動くと、思惑通りにタモツは再び大きなストロークを始めるのだった。
(私なしではいられない身体にしてあげる)
沙希子は心の中で固く誓うのだった。
田川の話をした次の夜、沙希子は自分で恥毛を全て剃りあげてしまった。その理由をあれこれ聞いても、沙希子はなかなか口を割らなかった。とうとうお酒に酔った夜に、タモツにしつこく責められて、沙希子が告白した。
「これはタモっちゃん以外に絶対に裸は見せないっていう印。それに色々なのを履くのに便利でしょ……」
真っ赤になって小声で告白する沙希子をタモツは思い切り抱きしめた。実は沙希子にとって恥毛を剃りあげるのは、最大の負い目になっている田川とのことを葬り去る儀式だった。
(こんな身体になった私から、あなたはもう逃げられないのよ。その代り、誰にもしたことがない恥ずかしいことを、いっぱいしてあげる。あなたが喜ぶ私の恥ずかしがる姿をいっぱい見せてあげるね)
タモツに抱きしめられながら、沙希子は心の中でそう呟いていた。
時々、安全日ではない日に、タモツは沙希子の中に放ちたい欲望にかられることがあった。その時はわざと抗う沙希子を押さえつけて、お尻を大きく持ち上げさせて犯すのだ。その強姦ごっこは定番になっていて、タモツに新たな興奮を呼び起こすのだった。
いやがる沙希子を無理やり四つん這いにさせると、タモツは大きなストロークで沙希子のお尻に腰を打ちつける。パンパンと音が鳴り、耐え切れなくなった沙希子が背中を大きく反らせて、上体を沈みこませていく。
「どこが気持ちいいか、言ってみろ」
わざと乱暴な口調でタモツが詰問すると、沙希子はいやいやと首を振る。
「言わないと、抜いちゃうぞ」
タモツはわざとぎりぎりまで腰を引く。
「あん、だめ。言うから抜かないで。…タモっちゃんの入れているところ、オマンジュウの中がとっても気持ちいい」
沙希子は脅しに屈して、ぎりぎりの恥ずかしい言葉を口にするのだった。
「あと…オッパイの先がシーツに擦れて気持ちいい」
沙希子は上半身を沈めながら、乳首がちょうどシーツに当たるように調整していたのだった。タモツの激しい突き上げに、身体が揺れる。それに応じで揺れる乳房の先が、シーツの上を掃くようして動き、敏感な先端が擦れるのだ。一方的に組み敷かれているなかに、沙希子は自分の快感を探って、わざと上体を沈ませ、乳首がシーツに擦れるちょうどいい高さに調整していたのだ。それほど沙希子が貪欲になったことが、タモツの興奮を倍増させるのだった。
「ねぇ、オッパイも触って」
沙希子の願いに応えて、タモツは手を伸ばすと、乳房を揉み上げながら果てていくのだ。
「タモっちゃんなら、犯されるのもスキだよ。後ろからオッパイをぎゅってされるとすごく気持ちいい」
犯されるといつもより激しい反応をみせる沙希子は、行為の後にそう言って抱きつくのだった。
タモツはその言葉に大喜びしたが、沙希子には計算のうちだった。沙希子にとっては目先をあれこれ変えることで、タモツの興味を自分に向けさせることが大事なのだ。どうすればタモツが興奮し、どうすれば自分の思い通りに奉仕するようになるのか、沙希子は考え、どんどん学習していった。
例えば二人は休日に映画に行くことが多かった。毎週火曜日がお店の定休日なので、二人はすいている午前中を狙って映画館に繰り出すのだ。座席に座り暗くなると沙希子は必ず膝の上にタモツの手をとり、指を引っ張ったり、手のひらに字を書いたりといたずらをする。くすぐったさに耐え切れなくなったタモツは腕を返して、逆に服の上から沙希子の胸の膨らみの先端をぎゅっとつまんでくる。
(ほら、興奮してきた)
沙希子は心の中でそう喜び、タモツの二の腕にしがみつく。
「いけない子はお仕置きします」
そう耳元で囁いて、沙希子はロングスカートの上からタモツの手を内股に差しこんで、太腿でぎゅっと締めつける。さらにタモツの二の腕をつかまえると、柔らかい胸の膨らみをグイグイ押しつけるのだった。タモツの興奮は頂点に達し、狙い通り沙希子の内股をやさしく握ると、あたりの様子をうかがいながら、暗闇の中で沙希子の唇を奪いにくるのだった。
思惑通りにことが運んだことに沙希子は興奮し、自分でも恥ずかしいくらいに濡れるのだった。
お店への行き帰りの時はお客の目もあるので、沙希子は手をつなぐだけだったが、知り合いに出逢うことのない定休日の繁華街では、沙希子はやりたい放題だった。
まず、タモツの腕を抱えるようにして、沙希子は胸の膨らみをタモツに押しつけながら歩く。そうするとタモツは周囲の隙を見て、必ず沙希子の唇を奪いに来る。大勢の女たちが歩いている街中で、タモツの興味が自分だけに向けられる。沙希子にとってこの上なく幸せな一瞬だった。
ビルの陰や街路樹の下など、沙希子はスリルを味わいながらタモツに白昼のキスを強いてくのだった。いや、人に見られるスリルを感じていたのはタモツだけで、沙希子は街にいる女性全員に見せつけたかったのだ。そうすることで、沙希子も異常な興奮を味わうのだった。
そしてたまらなくなると、二人はラブホテルになだれ込んだ。二人で初めて入ったラブホテルのクオークで、沙希子は全室制覇をしようと持ちかけた。タモツも面白がってその計画に賛成した。ホテルの中で特別なことをするわけではなかった。時には何もせず裸で抱き合うだけのこともあった。ただお互いの肌と肌を思いっきり密着させて、あれこれと色んなところを触らせて、思う存分キスをするだけでも、沙希子は充分に満ち足りるのだった。数ヵ月後、クオークの全室をクリアした日、ホテルから出ると沙希子がこぶしを突き上げていたずらっぽく宣言した。
「今度は全館制覇だ」
そのあたりには無数のラブホテルがあるので、当分楽しめそうな目標だった。こうした刺激によって、沙希子はタモツをがんじがらめにしていった。
最近タモツはベッドの中で、沙希子のお尻に異常な興味を持つようになっていた。お尻を叩くのではなく、お尻の穴を舐めるのだ。最初に舐められた時、沙希子はあまりの恥ずかしさに抵抗した。
「だめ、そこは…恥ずかしいからやめて」
そう言ってもがくと、タモツはむきなって沙希子を押さえつけ、舐め続けるのだ。その結果、沙希子はこれまでに味わったことない恥ずかしさと、卒倒しそうな気持ちの良さに追い上げられて、最後には本気で泣いてしまった。
沙希子には追い上げられると泣くという性癖があった。悲しいから泣くのではなく、気持ちが良すぎて訳が分からなくなってしまうのだ。そして思い切り泣いた後に、安らいで満ち足りた気分になるのだった。
それを知っているタモツは、沙希子が泣くのを喜んだ。しかしお尻の穴を初めて舐められた時の沙希子は、まさに泣きわめくという状態で、ついにはおしっこを漏らしてしまった。
「すごいよ。すご過ぎて、ちょっと怖いよ」
タモツに抱きつきながら、沙希子は涙目でそう囁いた。
これを機に、タモツはますます沙希子のお尻の穴に執着し出した。新しい興奮に酔いしれながら、沙希子はある疑問を抱きはじめた。
(ひょっとして、お尻の穴に入れたいと思っているの?)
タモツが店に出て留守の時に、沙希子はインターネットで調べてみた。そして多くの男たちが、お尻の穴を犯したい願望を持っていることを知った。
(やっぱり、そうだ。絶対に私のお尻の穴を狙っている)
沙希子もお尻の穴を犯されることに興味があった。とんでもない新しい快感が得られることを、密かに期待していたのだ。しかし、これは切り札にしようと、沙希子は決めた。
(分かったわ。でも簡単には許してあげない)
普通の男女は出逢ってから、段階を踏んで親密になっていく。その間に女は、手を握らせ、唇を許し、抱きしめられて、乳房を触らせ、身体を開く、といった風に、男を焦らしながら取り込んでいく。意識しているかどうかは別にして、大抵の女はそういう手口を使いながら、身体の魅力で男をがんじがらめに縛っていくのだ。
ところが沙希子の場合は、いきなり身体の関係から始まってしまった。しかもその関係はタモツが思うがままに進んできたので、タモツを縛りつけるような切り札を沙希子は持っていなかったのだ。
(お尻の穴をうんと焦らしてやる。与えるそぶりを見せながら、焦らしに焦らして、あなたをがんじがらめにしてあげる)
沙希子は心に固く誓った。
(こんな夢みたいな暮らしがいつまで続くのだろうか)
部屋のベッドの中で、タモツはぼんやりと天井を眺めながら考えていた。沙希子はいつものようにタモツの肩と胸の間にできたくぼみに頬をつけて、可愛い寝顔を見せていた。
眠るときは二人とも裸なので、横向きなって寄り添っている沙希子の乳房が寄せられて、大きな谷間を作っていた。沙希子は上になっている手をタモツの股間に伸ばし、握りながらすやすやと寝ている。
タモツは沙希子の頭を抱えるようにしてその顔に手を伸ばすと、指先で沙希子の唇をさぐった。ぷりぷりとした唇の感触を楽しんでから、沙希子の口の中に親指をそっとふくませてやる。沙希子は夢見心地でそれを咥えると、眠りながらやさしく吸い上げてくるのだった。その無垢な寝顔を見ているうちに、タモツもやがて眠りに落ちて行った。薄れていく意識の中で、マキエの声がこだました。
「心からメロメロにされちまうと、女は男の言うことをなんでもきくようになる。とくにウブな子ほど、お前好みに染まっていくよ。そりゃ不細工なお前にしみれば夢のような話だろうけど、それは本当のことさ。例えば新聞沙汰の事件を起こした女を調べてごらん。必ず陰に男がいるから。メロメロになった女は、その男のためだったら嘘もつくし、人だって殺す、かもね。ま、せいぜい頑張って、お前も女を本気で溶かしてみればいいさ。でも、ひとつだけ覚えておきな。首尾よくいったと思ったとたんに、実は形勢は逆転しているんだ。つまり今度はお前がその女にこってり絞られることになるってわけさ」(終)