1.地獄からの使者

からめとられた百合花

(大変なことになってしまった)
とある救急病院の集中治療室のなかで、松崎百合花は途方にくれていた。
この春、大学を卒業する予定だった百合花は、卒業式に着る着物の試着のために、都内の有名呉服店の売り場で、待ち合わせをした父親が現れるのを待っていた。そこに入ってきたのは父が倒れたという知らせだった。慌てて駆け付けた病院で百合花を待っていたのは、すでに意識を失って眠っている父の姿だった。担当の医師の話では、父は脳梗塞を起こしており、おそらくこのまま意識は戻らず、植物人間になってしまう可能性が高いということだった。
幼い頃に母親を事故で失ってから、ひとりっ子の百合花は、父親の愛を一身に受けて育ってきた。百合花の父、松崎武は食品ブローカーとして活躍しており、組織は小さいながら、それなりの実績と利益を積んでいる会社を経営していた。事業が上手くいき、比較的金回りのいい武ではあったが、性格が謹厳実直だったので、酒、女、博打という中小企業の社長が失敗する原因となるようなものとは無縁の生活を送っていた。それどころか周囲が再婚を進めても頑として受け入れず、百合花に全での愛情を注いできたのだった。
ところが数年前に起きた新型コロナウィルスのパンデミックで、日本の外食産業が壊滅の危機に瀕した時、そんな幸せな親子の生活にも一気に暗雲がたれこめた。武の事業もあっという間に暗礁に乗り上げ、毎日、資金繰りに苦しめられる日々が始まった。その心労からくるストレスで、ついに武は脳梗塞で倒れてしまったのだ。
(どうすればいいのだろう)
眠り続ける父を前に百合花はただオロオロするばかりだったが、取り敢えず着替えなど父の入院に必要なものを揃えるために、家に戻ることにした。
家に戻ってみると驚いたことに玄関のドアが空いていた。慌ててリビングに駆け込むと、そこには見知らぬ二人組の男たちが百合花を待ち受けていた。一人は背が高くがっちりとした体格をしており、頭をスキンヘッドに剃り上げている。派手な開襟シャツの上に白の麻のスーツを着ており、一目で堅気ではないことがみてとれた。もう一方の男は小柄な体格で、高そうな紺色のスーツを着ており、その袖口から金ぴかの高級時計をのぞかせていた。。
「お嬢さんの百合花さんですよね」
小柄な男がニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。
「あなたたちは誰ですか?家に勝手に上がり込んで、警察を呼びますよ」
「呼んでみろよ」大柄な男が気色ばんだ。その勢いに百合花は恐怖を感じた。
「まあまあ、そう言わないで。私たちはあなたのお父さんのビジネス・パートナーで、お父さんが倒れたと聞いて駆けつけてきたんですよ」
小柄な男は気味の悪い猫なで声でそう言いながら、好色な視線で、百合花の全身を舐めまわしてきた。百合花は一見痩せているようにみえるが、よく見ると黄色いニットの胸に、その下に隠されている大きな乳房がまるまるとした膨らみを形作っている。それは男であれば誰でも、思いっきり掴みたくなるような魅惑的な膨らみだった。さらにぎゅっと締まったウエストの下には体の線がわかるスキニーな白いパンツを履いていて、むっちりとしたお尻と太腿のラインが露わになっていた。犯すような男の視線を感じた百合花は、本能的に腕で胸を覆い隠すと、体を固くした。
(こいつ、顔はかわいいし、おまけに抱き心地の良さそうな体をしているなぁ)
小男は今すぐにでも抱きつきたい衝動をこらえながら、言葉を続けた。
「お嬢さん、実は私たちは父さんの借金を返して欲しくて、ここへ来たんです」
男の話によれば、家はすでに抵当に入っていて男たちに差し押さえられており、さらに父の会社の全資産を精算しても5億円ほど足りないという。
「いきなりそんなこと言われても、私には何もできません」
「いや簡単なことで、月賦でもいいからお金を返して欲しいんですよ」
「まだ学生だし、それは無理です」
「だったらいい方法がありますよ」
大柄な男が素早く動くと、百合花の後ろ側に回った。それに合わせて、小柄な男が前から迫ってきた。
「な、なにをするんですか」
「いい就職先を紹介しますよ。うちは風俗関係のお店もやっているんで、そこで働いて、体で払ってくださいよ」
「無理、いやです」
百合花が叫ぶと同時に、後に回った大男が百合花の両腕をつかんで身動きが出来ないように押さえつけた。小柄な男は素早く百合花の下半身に自らの下半身を密着させると、暴れようとする百合花の足の動きを封じた。そして両手を百合花の胸に伸ばすと、まるまるとした膨らみに手のひらをかぶせ、ぐいっとこねるように揉み上げた。
「いやぁ。痛い。」
百合花は体をこわばらせ激しく抵抗しようとしたが、後から両方の二の腕をがっちりとつかまれており、身動きが全く取れなかった。それをいいことに百合花の目の前に迫っている小柄な男は、ニヤニヤ笑いながら、ニットの上から百合花の膨らみをゴリゴリと揉み続けた。
「ああ、思った通りだ。お嬢さん、いいオッパイしているね。俺はプロだから、ブラの上から揉むだけで、どんなオッパイかわかるんだ。お嬢さんは恐らくEカップだろ」
それは図星だった。
「しかも乳首が凄く感じやすい」
そう言いながら男は親指と人差し指の腹で膨らみの先端を挟むと、両方の指をこすり合わせる様にして、乳首に強い刺激を加えてくるのだった。
「や、やめてください。お願いだからそんなことしないで」
そんな百合花の願いを無視して、男は乳首を指の間でつぶすようにして揉み続けた。さらに男のヤニ臭い口が、百合花の唇をとらえようと近づいてきた。百合花は恐怖のあまり、涙がボロボロ溢れてきた。
「手荒な真似はよしなさい」
突然、部屋の中に男の声が響いた。百合花をいたぶっている男たちが驚いで部屋の入口をみた。そこに一人の老人が立っていた。

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