4.甘い誘い

しず子の純情

海に行った次の日から、しず子は部屋の模様替えに没頭した。その間友達と会うこともなく過ごしたしず子は、お盆過ぎの登校日で久々に友達に再会した。しず子の黒いハイレグ水着がクラスで話題になっており、しず子は有頂天になった。
登校日の行事が終わり、一度、家で着替えてから溜まり場に勇んで出かけると、そこでも話題はしず子の水着だった。
「雑誌のグラビアでデビューしないか?」
店の奥のカウンターから、見知らぬ男が盛り上がっているしず子たちに声をかけてきた。二十代後半に見えるその男はスギヤマと名乗った。履き古したジーンズに、色のあせたアロハシャツを着たスギヤマは、どことなくなよなよとした風貌で、いわゆるしず子たちの身の回りにいないタイプだった。職業はカメラマンで、モデルを探してスカウトの旅をしているという。しず子たちは色めきたった。
「地方にはアイドルの原石が埋もれているからね」
「えー、アイドルの写真も撮るんですか」
「ジェイ・ボスのボーカルの子を知ってる?」
「えっ、ヒメちゃんのこと?」
ジェイ・ボスはアイドルではなかったが、若者に人気のロック・グループで、ボーカルのヒメはモデルのように可愛い顔と抜群のスタイルでカリスマだった。
「そうそう。ヒメちゃんがデビュー前の高校生の頃、最初に写真を撮ったのがオレ」
スギヤマは得意げに言った。
「そのTシャツのロゴ、ジェイ・ボスでしょ」
スギヤマがしず子の着ているTシャツを指さした。
「スタイルのいい君は、ジェイ・ボスのファンなの?」
スギヤマはしず子の水着の話を盗み聞きしていたのだろう。でも、スタイルがいいとカメラマンに言われるのは悪い気分ではなかった。それにひょっとしたら芸能界に入るチャンスかもしれないと、しず子は胸がざわめいた。
「私はリナ・スリーのファンで、ロックは好きじゃないけど、でもヒメちゃんは別。かっこいいから大好き」
「あんな風になりたい」
「うん。ヒメちゃんはダンスもうまいもんね」
「君ならいけるよ。ちょっと見たところ、あの頃のヒメちゃんより君の方が、スタイルがいいよ」
「本当ですか?」
それからしず子はスギヤマの隣に座って、芸能界の噂話を色々と聞かせてもらった。実は三流ゴシップ週刊誌を読んでいる者なら誰でも知っている程度の他愛無い話だったが、しず子は目を丸くして聞き入った。
「チャンスは突然来る。君もそれを逃さないようにしないとね」
「うん」
話が盛り上がる中、スギヤマはどうやったらしず子をものにできるかと思案していた。もともとナンパ目的で街を車で流していたところ、店のガラス越しに女子高校生とおぼしき女の子たちがたむろしているのを見かけたスギヤマは、早速、店の奥のカウンターに陣取って、密かに店内の女の子たちを物色していたのだった。そこに入って来たのがしず子だった。
背が高く、ミニスカートからそそるような美脚を出しているしず子は、断然目立っていた。よく見ると顔は田舎臭く、もっと可愛い女の子は他にもいたのだが、何よりもそのスタイルが帳消しにしていた。流行りのミュージシャンのロゴがプリントされている白いTシャツの胸もとがこんもりと盛り上がり、しず子の歩みに合わせてぷるぷると揺れる。Tシャツの下につけているライト・ブルーのブラジャーが透けて見え、ブラカップのレース模様の凹凸までうかがうことができた。
長い足を窮屈そうに降り畳み、四人掛けボックスの小さなソファに座る瞬間に、しず子の太腿の間にブラと同じライト・ブルーのパンティが見えた。友達と喋るのに夢中になっているしず子は、スギヤマの位置からミニスカートの下のパンティがまる見えなのに気づいていない。スギヤマは週刊誌を読むふりをしながら、しず子のパンティをのぞき続けた。三角形に絞り込まれたそこは、こんもりと盛り上がっており、スギヤマを異様に興奮させた。
(なんとか話すきっかけをつかみたい)
聞き耳を立てていると、彼女たちは、しず子の水着の話題で盛り上がっていた。
「しず子は胸デカいよね。足も長いし、超うらやましいよ」
「あれだったら、グラビアにデビューできるんじゃない」
「そんなことないよ」
全員にスタイルの良さを褒められて、しず子はまんざらでもない様子だった。
(よし、絶対この女をものにしてやる)
スギヤマは満を持して、しず子たちに話しかけた。スギヤマにとって、彼女たちが面白がる話題を出して注意をひきつけ、しず子を隣に座らせることなど朝飯前の芸当だった。
こうして首尾よくしず子を隣に座らせると、スギヤマは話しながらしず子の身体を舐め回すように盗み見た。上半身を大きくくねらせて笑った拍子に、しず子のTシャツの襟元が崩れ、Tシャツと身体の間に隙間が出来た。そこを素早くのぞきこんだスギヤマには、一瞬、しず子の身体がお臍のあたりまでまる見えになった。ライト・ブルーのブラジャーに包まれた乳房が予想通りの大きな谷間を作っている。水着の跡がくっきりとついている二つの真っ白い膨らみが、スギヤマの目に焼きついた。
(やっぱりね。こいつ、いいオッパイしてやがる)
ひき締まったウエストの下はデニムでできたミニのタイトスカートで、若い太腿とお尻ではち切れそうなほど張り詰めていた。ミニからのぞく美脚は生足だ。香水の代わりに、ポニーテールの髪からシャンプーの匂いがするのも少女らしくて好ましかった。
スギヤマは内心ほくそ笑んだ。
自分の身体を隅々まで見られているとは知らずに、しず子はスギヤマの与太話に夢中になり、時間がたつのを忘れていた。

error: 右クリックは使用できません。