14.キスマーク

しず子の純情

それから毎晩、布団の中で悩み続けたしず子は、ようやくひとつの解答に辿り着いた。
(マサシとエッチしたい)
日に日に強くなるその衝動を、しず子はもう、抑えることができなくなっていた。かといってマサシを誘惑している自分が恥かしく、後ろめたかった。
さらにしず子は、自分がマサシに恋をしていることを認めたくなかった。そこで自分の恋心を巧妙によけながら、都合のいい理屈を考え出していった。
じっくり考えてみると、これまでのマサシはいいことが何もない人生を送って来たように思えた。思いやりがあって、頭が良く、真面目に生きているのに、お母さんを早く亡くし、お父さんの怪我で生活は困窮し、頼みのお婆ちゃんも死んでしまった。しかもマサシは学校ではイジめられていた。しず子の脅しでイジめはやんでいるようだが、人とうまく喋ることが苦手なマサシはクラスで友達もなく、孤立しているようだった。そんなマサシの人生には、楽しいことがひとつもないように思えるのだ。
そう考えたしず子は、自分がマサシの楽しみになれないかと身勝手な理屈をつけた。
(変態野郎にいいようにやられたどうしようもないアタシだけど、それでマサシが喜んでくれたらいい)
中学一年の夏に強姦されて以来、しず子にとっては全ての男が嫌悪の対象だった。全ての男が醜く、汚い存在に思えたのだ。アイドルになる夢や、学校の友達たちと楽しく語らうはずの日常の暮らしは、あの夏以来、ズタズタに切り裂かれてしまった。その後のしず子は夢も情熱もなく、ただぼんやりと生きてきただけだった。
しず子の意識の中には、他の女の子とは違ううす汚れてしまった自分という思い込みが常にあり、それは寝ている間の夢の中や日常のふとした瞬間に首をもたげてきて、しず子を悩ませ続けたのだった。そんな悪夢を、しず子は負けるものかという強い気持ちだけで必死に抑え込んできた。それを抑え込むのが精一杯だったので、周囲から見たしず子は脱け殻のようだったのだ。あの夏以来、しず子の心の中は誰も受け入れることが出来ないほどに、ズタズタに傷ついていたのだった。
そこに忽然と現われたのがマサシだった。マサシの持っている不思議な魅力で癒されたしず子は、最近ようやく昔の活発さを取り戻しつつあった。本来のしず子は明るく、積極的な女の子だった。その生来の明るさを、しず子は取り戻しつつあったのだ。
(もし、アタシとエッチすることを、マサシが喜んでくれるなら…)
そう考えると、しず子はドキドキしてくるのだった。
一方、これはマサシを誘惑するのではないという理屈も出来ていた。いずれマサシは高校を卒業して、東京の大学へ行くだろう。そしてどんどん偉くなって、この町のことなんか忘れるだろう。もちろんしず子のことも、きれいさっぱり忘れるだろう。それでもしず子はいいと思った。今、孤独と悲しみの中にあるマサシをひと時でも救ってあげることができるなら、しず子はそれでかまわないと思った。
(マサシはアタシとエッチしてくれるかな?それを喜んでくれるかな?)
しず子は決心した。
「今日は特別な日だから、勉強はお休みしよう」
クリスマス・イブの夜、いつものように二人で食事をした後に、しず子がそう切り出した。そして冷蔵庫に隠しておいたケーキをテーブルの上に運んだ。
「クリスマス・イブだから、ケーキを食べようと思ってさ」
ケーキの真ん中には、サンタの形をした蝋燭が立っていた。しず子は蝋燭に火を灯すと、部屋の灯りを消した。蝋燭の温かい光の中に、マサシの顔が浮かび上がった。
「メリー・クリスマス」
二人はジュースの入ったグラスを合わせると、乾杯した。
「実は草壁さんにプレゼントがあるんです」
マサシが鞄の中から細長い袋を取り出して、しず子に渡した。袋には赤いリボンが巻きついていた。リボンの色は褪せていて、不器用に結んであった。マサシがリボンをつけたことは一目瞭然だった。
「えー、なんだよ。なにくれるの?」
しず子が袋を開けると、銀色のボールペンが出てきた。それは赤、黒二色のボールペンとシャープペンシルが内蔵されているものだった。
(男からプレゼントを貰ったのは初めてだ)
決して高価なものではないが、しず子はうれしくて有頂天になった。
「お金使わせちゃってごめんね。でも嬉しいよ。ありがとう」
「勉強、頑張って下さい」
「そうだね。頑張るよ」
しず子の微笑む顔を見て、マサシも微笑んだ。
「じゃあ、ケーキを食べようよ」
しず子は真ん中の蝋燭を倒さないようにケーキを取り分けた。
「クリスマスにケーキを食べるのは久しぶりです」
マサシはそう言うと、美味しそうにケーキを口に運んだ。その嬉しそうなマサシの顔を見ているだけで、しず子は幸せだった。うっとりとして、優しい気持ちになった。
蝋燭の炎の中でケーキを食べ終わった後、急に緊張した面持ちでしず子が切り出した。
「マサシ、ちょっと目をつぶってくれる。アタシがいいというまで目を開けないでよ」
マサシが素直に目をつぶったことを確かめると、しず子はそっと立ち上がった。そして音をたてないように気をつけながら、ベッドの脇に立った。
蝋燭の灯りの中で、しず子は勢いよく灰色のTシャツを脱いだ。薄暗がりのなかに、真っ白な上半身が現われた。くっきりと浮かぶ鎖骨の下に、小さめのブラに締め上げられた大きな乳房がはみ出し、まるまると盛り上がっている。しず子はスーパーの棚に山積みになっている下着を、試着もせずに値段を中心に買っていた。つまりサイズのあっていないブラから、大きな乳房がこぼれそうになっているのだ。
しず子は前屈みになってスウェット・パンツにも手をかけるとスルスルと下し、アッと言う間にブラとパンティだけになってしまった。白いパンティもブラ同様実用一点張りのもので、お臍の下あたりまでを覆っていた。およそ若い娘が履くにはイケてないものだ。だが長い足の上にある形のいいお尻に貼り着いている様は、ドキッとする色気を感じさせた。
ためらわずに手を背中に回すと、しず子はブラのホックを外した。乳房が解放されて、プリンとこぼれ出た。しず子はカップから解放された大きな膨らみを、片腕ですくうように隠した。そしてあいた手を後ろに回して、パンティに指をかけた。お尻の方から剝くように脱ぐと、一気に太腿の真ん中までおし下げる。そしてベッドに座りこんで、さらに下にずらし、とうとう足首からパンティを抜き取ってしまった。
全てを脱ぎ終わったしず子は、脱いだ服と下着を布団の中に慌てて隠した。動くたびに、腕の間で大きな乳房が揺れた。そしてベッドの横の壁に背中を持たせかけて座ると、足を伸ばした。脛がベッドから飛び出し、宙に浮いた。部屋の冷たい空気に触れた全身の肌が粟立った。
蝋燭の明かりの中で、マサシは大人しく目をつぶっていた。しず子は心臓から口が飛び出そうなくらいにドキドキした。再び裸の胸と股間を手で隠すと、しず子は思い切って言った。
「マサシ、目をあけていいよ」
ゆっくりと目を開けたマサシは、薄暗闇の中でしず子の行方を探した。
しず子は緊張で、口の中がカラカラになった。乳房を寄せ上げるように隠している腕の内側で、乳輪がほっこりと膨らみ、その中心で乳首が痛いほど固くなっているのを感じた。
「こっちだよ」
かすれ声で囁くように言うと、マサシの目がベッドの上のしず子を捉えた。
「あっ」
マサシは驚きの声をあげると、そのまま固まった。
「驚いた?」
「は、はい」
マサシが答えた。
「ねぇ、マサシはアタシの裸を見たい?」
「はい」
「変だけど、絶対に笑わないでね」
しず子はマサシの瞳を見つめながら、ゆっくりと手を下した。蝋燭の明かりに照らされて、しず子の真っ白な裸が浮かび上がった。
「変でしょ。アタシの身体」
マサシはしず子の言っている意味が分からない様子だった。しず子は恥ずかしさで赤くなりながら言った。
「可笑しいでしょ。大人なのに毛がないなんて…」
「綺麗です」
「えっ?」
「草壁さん、美術の教科書に出てくるギリシャ彫刻みたいです」
(何、言ってんの。マサシはひょっとしてアタシの裸を見ながら、頭の中で教科書を広げてんじゃないの?)
しず子は予想外のたとえに拍子抜けした。しかし、マサシの言っていることは嘘ではなかった。膝の場所が分からないほど真っ直ぐで長い足に続く豊かな腰回りが、ウエストで急激にくびれている。縦に割れているお臍から上に目を移すと、釣り鐘型に大きく張り出した乳房に、桜色の乳首が可愛らしい顔をのぞかせていた。そしてくっきりと現われている鎖骨の上には、無造作に流れる髪の毛に彩られた人形のように細くて白い首が続いていた。お臍の下に目を移すと、色白で柔らかそうな下腹には恥毛が全くなく、二つの太腿の中心に、女の子の割れ目がくっきりと見えた。その裸は、まさにヴィーナスを思わせるものだった。
マサシは瞬きをするのも忘れて、しず子の身体を見つめ続けた。その視線にさらされたしず子は、恥ずかしさで真っ赤になった。
「マサシ、恥ずかしいからこっちに来て隣に座ってよ」
そう言われたマサシがベッドの上に乗り、しず子の隣に座った。
「こっちを向いて」
マサシがしず子の方に顔を向けた。二人はお互いの息がかかるほど近い距離で見つめ合った。
「あのね、マサシが良かったら、アタシはマサシとひとつになりたいんだ。…マサシも、もう高校生だから言っている意味分かるよね」
「はい」
「それはどっちのハイ?言っている意味がわかるということ、それともアタシと…」
「草壁さんとひとつになりたいです」
しず子の言葉をさえぎって、マサシがきっぱりと言った。
「ホントに?」
「草壁さんとなら、ひとつになりたいです」
しず子の心の中に喜びが込み上げてきた。
「キスしよう」
そういうとしず子はマサシの肩に手を回し、唇を重ねた。
マサシの優しいキスで落ち着いたしず子は、自分の考えた計画を話し出した。
「マサシとひとつになる時は、アタシは朝まで一緒にいたいんだ。だから今度の大晦日の日がいい。家には初詣に行くって嘘をついて、夕方に待ち合わせようよ。夕方の六時に駅でどう?」
「いいです」
「じゃあ、大晦日の六時に駅の改札口で待ってるからね」
「はい、必ず行きます」
にっこりと笑ったしず子に応えるように、マサシも微笑んだ。
「あの草壁さん」
「何?」
「もう一回キスしてもいいですか?」
「うん」
許しを得たマサシがしず子の肩に手を回してきた。そしてやさしくキスをした。ゆっくりと口の中に入って来たマサシの舌を、しず子は唇をすぼめて吸い上げた。
(ああ、マサシ。アタシは幸せだよ)
その日、しず子はマサシが帰るまで裸でいた。服を着たままのマサシとベッドの布団の上に並んで横になって、時々お喋りをしては、ずっとキスをした。
「マサシ、胸にキスして」
しず子にそう言われたマサシは、しず子の左の乳房に唇を寄せると、桜色に色づいた乳首をついばむように口に含んだ。
「はん」
くすぐったい感覚に、しず子は思わず身体を震わせそうになった。それを我慢してじっとしていると、全身が痺れるような快感が湧きあがってきた。しず子は堪らなくなってマサシの頭の後ろに手を回すと、マサシの顔を乳房に強く押し付けた。マサシは口を開いて乳輪をほおばると、口の中で固くなっている乳首を舌でころがし始めた。
(ああ、気持ちがいい)
しず子の中に痺れる感覚が溢れて行く。
「マサシ、噛んで」
囁くようにしず子が言うと、マサシが乳輪ごと乳首を甘く噛んだ。
「もっと強くして」
マサシの歯が乳房に食い込んできた。
「ああ、いいよ。マサシ、凄く気持ちいいよ」
マサシが顔を上げた。
「草壁さん、ごめんなさい。噛み跡がついちゃいました」
顔をさげ下目使いでみて見ると、マサシの言う通りに乳輪の周りが赤くなり、歯の跡がくっきりとついていた。
(これはマサシとアタシだけの秘密の噛み跡だ)
そう思うとしず子は飛び上がりたいほど嬉しかった。
「こういうのをキスマークって言うんだよ」
「そうなんですか」
「マサシにキスマークを貰って、アタシはうれしいんだ。こっちのオッパイにもつけてよ」
かすれ声で、しず子が甘えた。マサシは右の乳房に唇を寄せた。しず子はうっとりとなって、マサシの頭を抱き寄せると、再び胸の膨らみに強くおしつけた。
「はああ…」
マサシが口に含んだ乳房の先端を、乳輪ごと何度も何度も甘噛みした。しず子の身体の奥からため息と甘い声が入り混じったものが湧きあがって来た。しず子は身体じゅうをマサシに噛んで欲しかった。
「マサシは、いまなにを考えてる?」
「草壁さんの胸が柔らかくて…気持ちがいいです」
あまりに正直に、感想だけを述べるマサシが可笑しかった。
「マサシ、その草壁さんっていう呼び方やめてよ」
「なんて呼べばいいんでしょうか?」
「そうだね。どうしようか?」
「お友達は草壁さんのこと、何て呼ぶのですか?」
「しーちゃんか、しずネェって呼ぶな」
「では、しずネェって呼びます」
「それはやだな。アタシはマサシの姉さんじゃないもん」
「しずネェさんは?」
「だから姉さんじゃないってば。やっぱりしーちゃんがいい。しーちゃんって呼んでよ」
「わかりました」
「呼んでみて」
「…しーちゃん」
しず子は嬉しくなって、マサシの上に乗った。
「マサシ、抱きしめて」
身体をぴったりと寄せてマサシの首に手を回すと、しず子はそういった。マサシの手が、裸のしず子の背中にまわり、ゆっくりと抱きしめてくれた。
「もっと強く」
マサシが腹筋に力を込めて、しず子を思い切り抱きしめた。マサシとの隙間が全部埋まって、しず子は自分の身体がマサシの中に沈み込んでいくような気がした。足先までマサシの上に乗り上げぴったりと身体を合わせたしず子は、太腿を閉じると、力をいれてぎゅっと股間を絞り上げた。背骨のあたりがじんじんと痺れた。
(ああ、溶けそうだ)
しず子は唇を重ねマサシの舌をからめとると、ゆっくりと吸い上げた。このまま時間が止まればいいのにと思った。

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